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パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長が2025年9月25日、国連総会でビデオ演説を行い、フランスが主導する和平計画の実行に向け、トランプ米大統領やサウジアラビア、国連などと協力する用意があると明言した。ガザ統治からハマスを除外し、武装解除を求める姿勢を明確にし、パレスチナ国家の承認と国連加盟の実現を各国に促した。
国連で語った「ガザ後」の青写真
演説は、ガザで続く壊滅的な被害への非難から始まった。アッバス氏は、ハマスが2023年に行った攻撃を「拒否する」と述べつつ、戦後のガザにおけるハマスの役割は認めないと語った。求めるのは武装解除であり、治安と統治はパレスチナ自治政府が担うという青写真である。統治の一元化を打ち出すことで、分断が生んだ空白と暴力の連鎖を断つ狙いが見える。イスラエルへの厳しい批判とあわせ、武装抵抗を正当化しない立場を示した点は、各国に向けたメッセージとしても鮮明である。
そのうえで同氏は、トランプ米大統領、サウジ、フランス、国連と歩調を合わせ、具体策の実装に踏み出す意欲を示した。ガザの「全責任」をパレスチナ国家が引き受ける構想を掲げ、西岸地区との一体運営を前提に、治安や行政の枠組みを再構築する考えを述べた。戦争終結後は大統領選と議会選を1年以内に実施するとし、権力移譲や教育の改善、福祉制度の見直しなど、制度改革にも踏み込む姿勢を強調した。内政の立て直しを国際社会の監視下で進める意思表示は、統治の正統性を国際的に担保する狙いに直結する。
ビデオ演説の舞台裏では、米国がパレスチナ側代表への査証発給を拒否・取り消しとした経緯がある。これを受け、国連総会は同月19日に特例の決議を採択し、アッバス氏の事前収録演説を本会場で再生する手続きを認めた。決議は賛成145、反対5という大差で通過し、開催中の会合でもビデオ発言を許容する枠組みが整えられた。演台に本人が立てなくとも、政治的メッセージが国際舞台に届く道筋は、手続きの工夫で確保されたのである。
フランス発の計画、その要点
アッバス氏が「実行に協力する」と応じたのは、フランスとサウジが国連本部で共同議長を務めた会合で示された枠組みだ。2025年9月22日、マクロン仏大統領は演説でパレスチナ国家の承認を表明し、計画の起点に「ガザ全域での軍事行動の停止」と「ハマスに拘束されている48人の人質解放」を並行して実現する段階を置いた。そのうえで、停戦に続く人道支援の大規模拡大、復旧・復興、治安の安定へと工程を繋げ、暴力の再燃を抑える仕組みを描いた。
計画の中核は、移行期の統治だ。国際社会の関与を前提に、暫定政権がガザの行政と治安を管理し、武装組織の排除と権力の一元化を徹底する。ここに自治政府の関与を明記し、ハマスを統治から明確に除外するラインを引く。復興資金の投下や国境管理、治安部隊の能力強化など、既存の国際ミッションを統合する考え方も打ち出された。戦火の只中にあっても、翌日の統治を機能させる具体の絵姿が必要だという現実的な発想が通底している。
この構想の背景には、7月に国連主導でまとめられた宣言の積み上げがある。会議は総会の場で再開され、142か国が「ニューヨーク宣言」を支持した。マクロン氏は、承認はイスラエルの権利を損なうものではなく、二国家解決への道筋を守る行為だと位置づけた。敵を打ち負かすためには軍事だけでは足りず、政治的に武装勢力を無力化する段取りが欠かせないという認識が、計画全体を貫いている。
承認の連鎖と各国の立場
国際社会では、国家承認の連鎖が現実の政治日程に割り込んできた。イギリス、カナダ、オーストラリアが相次いで承認に踏み切り、従来は慎重だった主要国が足場を動かした意味は小さくない。承認それ自体で占領や戦闘が止まるわけではないが、統治の受け皿に外形的な正統性を与え、改革と選挙の工程を国際的な監視と支援のもとで前進させる圧力となる。象徴にとどめず、治安や財政の改善、人質解放と停戦の実務に結び付けられるかが問われる局面だ。
欧州ではフランスが承認を公表し、ベルギー、ルクセンブルク、マルタ、モナコ、サンマリノ、アンドラ、ポルトガルなどが続いた。ハマスの政治的排除を前提に、暫定統治から国家権能の確立へと進む工程に、アラブ諸国と欧州が同じテーブルで関与する構図が形になりつつある。アッバス氏が示した「一つの政府、一つの法、一つの武器」という統治の原則は、外からの資金や要員の投入にも連動する。改革の実行度合いが支援の条件と結び付く現実は、自治政府にとって避けがたい重圧でもある。
一方で、米国とイスラエルは7月の国連会議を欠席し、現在の枠組みに与しない姿勢を崩していない。米国はパレスチナ側に対し査証の取り消しや渡航制限など強硬な措置を取り、汎欧州の承認機運との距離が際立っている。イスラエル国内では戦闘の継続と人質交渉の優先を唱える声が根強く、二国家解決を「時期尚早」とする論調も根付く。こうした溝をまたぐには、戦闘停止と人質解放の同時進行を確実にし、その先の治安・統治・復興を粘り強く積み上げるほかない。計画が紙の上の合意に終わるか、現場の秩序回復へと歩を進められるかは、これから数週間の実装力にかかっている。
