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「ここまで来た」と担当者が薄型アンテナを掲げると、画面には1Gbps近い通信速度が映し出された。Amazonの衛星通信サービス「Amazon Leo」が発表した新端末「Amazon Leo Ultra」は、企業向けのギガビット級衛星通信をうたう中核機器だ。低軌道衛星網と組み合わせ、まずは選ばれた企業向けにプレビュー提供を始め、山間部や洋上など従来つながりにくかった現場での利用を見据える。
ギガビット級アンテナがめざす現場の「当たり前」
Leo Ultraは全二重フェーズドアレイ方式のアンテナで、最大1Gbpsのダウンロードと400Mbpsのアップロードを同時にこなすとされる。フェーズドアレイアンテナとは、多数の小さな素子の位相を電子的に制御し、機械的に動かさずに電波の向きを変える仕組みだ。この方式を採ることで、衛星を追尾しながら安定したビームを保ち、動画会議やリアルタイム監視といった遅延に敏感な用途にも対応しやすくなる。
筐体は約20×30インチの平板状で、内部にはAmazon Leo設計のカスタムシリコンチップと独自の無線周波数設計、信号処理アルゴリズムが組み込まれる。高温・低温や雨、強風に耐える防塵防水設計とし、可動部をなくすことで故障リスクを抑えつつ、設置時間の短縮も図った。屋上や車両、仮設マストなど多様な場所に固定することを想定しており、鉱山や洋上プラットフォームなど従来インフラ整備が難しかった現場に、高速回線を直接持ち込むことを狙う。
企業向けプレビューと衛星コンステレーションの行方
今回の発表に合わせ、Amazon Leoは企業・政府向けのプレビュー提供を開始し、Leo Ultraや中型端末「Leo Pro」などを一部顧客へ出荷している。接続先としては、Amazon Web Services（AWS）への専用経路や、データセンターとのプライベート接続が用意され、リモート拠点からの通信を公共インターネット経由にせず社内網へ直接収容できる構成だ。衛星回線を単なる「バックアップ回線」ではなく、基幹ネットワークの一部として組み込む構想がうかがえる。
背景には、Project Kuiperとして始まった計画が本格商用フェーズに入りつつあることがある。サービス名はすでにAmazon Leoへと改められ、2025年時点で150基超の衛星が軌道上に投入済みで、最終的には約3,200基のコンステレーション構築を目指すという。競合のStarlinkが最大400Mbps級のサービスを広げるなか、Leo Ultraはアンテナ単体で1Gbps級をうたうことで差別化を図る。2026年の本格提供に向け、遠隔地の暮らしや産業現場で、どのような「つながり方」が標準になっていくのかが静かに試され始めている。
