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暗く落ちたスタジオで、紫の結晶が脈打つ映像が一瞬きらめく。AMDが公開した「Project Amethyst」は、「圧縮」「集約」「専用化」を合図に、次のGPU像を垣間見せた。Universal Compression、Neural Array、Radiance Cores――3つの要素は、描画とAIを同じ土俵で再編する試みであり、ゲーム機からノートPCまで広い領域に波紋を及ぼす序章と映る。
映像が示した三つの柱
今回の映像が最初に強調したのは、グラフィックスパイプライン全体を視野に入れたデータ圧縮である。Universal Compressionは、テクスチャなど一部に限らず、フレームバッファや中間結果まで含め「すべて」を対象に圧縮する発想だ。圧縮展開のオーバーヘッドを下げ込み、帯域と容量の両面で負荷を均すことで、4Kやそれ以上の解像度でも安定したフレーム供給を狙う設計思想が透ける。
二つ目の柱はNeural Arrayだ。映像は、行列積演算（MMA）を束ねて高効率に回すことで、アップスケーリングやアンチエイリアス、超解像といった機械学習ベースの処理を加速する姿を示した。AIが担う部分を汎用演算から切り分けることで、遅延を抑えながら画質を底上げする狙いが読み取れる。アップスケーリングの品質と一貫性をどう確保するかが、実装の鍵とみられる。
三つ目はRadiance Coresである。レイ／パストレーシングを専用ハードで受ける方針を改めて示し、交差判定やサンプリングの負荷をグラフィックス全体から分離する構造に触れた。これにより、シェーダ側の混雑を避け、光の計算とラスタライズの並行性を高めることができる。描画品質の維持とフレームレートの落ち込みを両立させる設計と受け止められる。
専用化がもたらす実利
AMDのレイトレーシングは、汎用CUで処理を兼務させる設計ゆえに競合より不利だと指摘されてきた。Radiance Coresはこの弱点に正面から手を入れる試みであり、光輸送の計算を別系統に逃がすことで、描画キューの渋滞を緩める狙いがある。結果として、シーンの複雑化に伴う急激なフレーム落ちを抑え、品質設定を攻めやすくなる効果が期待される。
Neural Arrayの導入は、描画の最終段で威力を発揮する。学習済みモデルを走らせるアップスケーリングは、ピクセルの欠落を推定で補い、入力解像度を抑えながら見た目の解像感を維持する技法だ。専用アレイがあれば、可変解像やテンポラル手法の安定度を高め、フレーム時間のばらつきを抑制できる。映像表現におけるAIの居場所を、ハード側がつくる格好である。
Universal Compressionは、メモリの「使い方」を変える。帯域と容量の制約は、据え置き機でもモバイルでも共通の律速となる。パイプライン全域での圧縮が常用可能になれば、チップあたりのメモリ構成やコストの設計自由度が広がる。結果として、手頃な価格帯のゲーミングノートや薄型機でも、高解像度・高品質設定を実現しやすくなる絵が見えてくる。
広がる波紋と次の一手
映像にソニーが登場したことから、コミュニティでは次世代「PlayStation」向け技術ではないかという推測が広がった。両社の協業は歴代PlayStationのSoCで実績があり、自然な連想である。一方で、現時点で確認されている範囲では、製品名や世代を特定する公式言及はない。プラットフォーム横断の基盤技術として提示した可能性も残る。
AMDはXboxやSteam Deckなど主流のゲーム機にもチップを供給している。Nintendo SwitchがNVIDIA製SoCという例外であることを踏まえると、Amethystの要素技術は複数の据え置き機や携帯機、そしてノートPCのAPUにも波及しうる。専用化と圧縮、AIの三点セットは、電力と発熱の制約が厳しい小型筐体ほど効き目が大きいと映る。
今回の披露は、次期GPUアーキテクチャや次世代コンソール期を見据えた「序章」とみられる。一部報道によれば、正式な続報は早ければ2026年1月の大規模見本市で示される可能性があるが、確定情報ではない。現時点でコメントは得られていないという伝え方もあり、ベンダー横断の最適化や開発者向けツール群がどう並ぶのか、次の一手を待ちたい。
