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首都アンタナナリボの中心部で、旗がはためき、若者のざわめきが風にまぎれる。数週間続く抗議のうねりのさなか、軍の一部が権力を掌握したと主張したのが14日である。大統領の不在や政権の正統性をめぐる臆測が渦巻く一方、アフリカ連合は憲法秩序の尊重と対話を呼びかけ、情勢の沈静化を促している。揺れる街に、次の一手を探る空気が広がっている。
路上のうねりが政治を揺らす
アンタナナリボでは、断水や停電への不満が火種となり、若者を中心とする集会が次第に膨らんだ。太陽に色あせた横断幕、キャップをかぶった群衆、拳を掲げる列。生活の不安と政治への苛立ちが重なり、声は日ごとに荒く、長くなった。日常の破れ目から噴き出した不満が、政権のあり方そのものを問う段階に達したと映る。
14日には、軍の精鋭部隊を名乗る側が権限の移行を宣言し、暫定統治と選挙実施の方針を語ったと現地で伝わった。選挙管理などの制度を止めるといった強硬策も口にされたという。市街地では歓声と懐疑が交錯し、喜びの旗の陰で、長期化への不安も囁かれた。路上の力が権力に触れた瞬間、都市の鼓動はさらに速くなった。
デモの初期はインフラや物価の問題が前面にあったが、日を追うごとに失業や汚職の疑念、政治の閉塞といった重いテーマが重ねられた。声の中身が変わるにつれ、通りの風景も変わる。プラカードの言葉は生活から制度へ、個別の不満から統治の正統性へと移り、街は政治の鏡としての輪郭を濃くしたのである。
権力の空白か、未遂か
一部報道は、軍の幹部が大統領不在を理由に新体制の樹立を宣言したと伝えた。憲法機関の関与を示唆する情報も飛び交い、支持と反発の間で解釈が割れた。大統領の所在をめぐる噂は瞬く間に広がり、確証のない言説が路上の熱に吸い寄せられる。権力の座が空いて見えるとき、人々の視線は一斉にそこへ集まるものだ。
これに対し、政権側は一連の動きを「クーデター未遂」と位置づけ、正統な権限は失われていないと強調したとされる。対立する主張がぶつかる中で、街の緊張は下がらず、統治の実態と手続の整合が問われ続けた。法の枠組みと現実の力学が食い違うとき、政治は急峻な坂道を滑りやすい。
国際機関は事態の深刻さを相次いで指摘した。アフリカ連合は12日、軍内部の動きと首都での抗議拡大に「深い懸念」を示し、文民と軍を含むすべての当事者に自制と対話を促したうえで、憲法と既存の制度枠組みの順守を求めた。原則への回帰を促す声明は、政治の速度を落とし、手続に光を当てる狙いがうかがえる。
大陸の原則と仲介の視線
13日には、アフリカ連合の平和安全保障理事会が緊急会合を開き、状況を審議した。大陸組織はロメ宣言やアフリカ民主憲章に定められた「非憲法的な政権交代」へのゼロ容認を重ねて示し、地域機構との連携にも言及した。制度と原則の側から秩序回復を促す姿勢が、緊張する路上の向こう側に見えてくる。
この間、街では経済活動の停滞や交通の分断が続き、市井の暮らしにさざ波が広がった。抗議の横で店を開ける人、様子をうかがう子ども、配信で演説を追う若者。日常と政治が重なり合う風景は、危うい均衡の上に立っている。もし強引な措置が繰り返されれば、人権と生活の双方に傷が残る恐れがあるといえる。
軍側が掲げる移行と選挙実施の約束は、制度の停止や一方的な決定と両立しにくい。対話を軸にした具体的工程と、監視・仲介の枠組みが早期に形を持てるかが焦点だ。外からの圧力と内なる合意の接点を探り、透明性と説明責任で空白を埋められるか。街に立つ若者の視線は、次に示される地図の確かさを試している。
