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秋の古都・慶州に各経済のトップが集い、静かな緊張と期待が混じる空気が会場を包んだ。2025年10月31日、APEC首脳会議で中国の習近平国家主席は、世界貿易機関（WTO）を核とする多国間貿易体制の保護と経済協力の深化を呼びかけた。会期終盤にかけて側面外交も相次ぎ、地域秩序の現実と課題が交錯している。
首脳会議の焦点：多国間主義と協力
習氏は、ブロック化や「壁づくり」による分断ではなく、相互接続と協調で成長機会を広げるべきだと強調した。供給網の安定やデジタル経済のルールづくりを含む実務協力を前に進め、経済の包摂性を高めるという姿勢である。WTOを中心とする多国間体制の維持と、保護主義の回避を掲げる論点は、近年の発言の一貫性を保っている。
2025年の議長国である韓国は「Building a Sustainable Tomorrow: Connect, Innovate, Prosper」を掲げ、通商・デジタル・AI・構造改革を横断して議論を束ねる。首脳会議は慶州を舞台に、閣僚級会合とシニア・オフィシャル会合に続く最終盤の位置づけで、地域統合の次なる工程表づくりと、成長の不確実性に対するシグナル発信が焦点となった。
日中・加中・泰中の動き
現時点で確認されている範囲では、会場周辺での二国間会談が相次いだ。日本の高市早苗首相は、日中関係の安定化という大局観を踏まえ、台湾海峡の平和と安定が地域の要であるとの認識を伝える構えだ。中国側は相違の管理と協力分野の拡大を並行させる立場を示し、対話の継続に重心を置いたとみられる。
他の首脳との協議も立て込み、通商・投資、供給網、デジタル移行、治安協力など実務的テーマが俎上に載った。成長の原動力確保と地政学的リスクの緩和を両立させるべく、サプライチェーンの透明性や規制協力の枠組み作りが議題化。鉄道・エネルギーなどインフラ連携の加速も論点となり、各会談は「現場主義」の色彩を帯びた。
警戒と現実的協調
多くのアジア諸国は対中対話の継続を歓迎する一方、軍事面での示威や製造業競争力の偏り、輸出規制の発動可能性に起因するリスクには警戒感を抱く。自由で開かれた地域秩序の維持、過度な依存の回避、技術・データの越境ルール整合という三つの課題は、各国の政策運営に横たわる現実的な制約として残っている。
米国が貿易関係の「バランス是正」を掲げる中、アジア太平洋の多くはデカップリングを避けつつ、公正な競争条件を整える「第三の道」を探る段階にある。APECという緩やかな枠組みは法的拘束力を欠くが、首脳の政治シグナルと民間対話の接点を可視化し、標準や相互運用性を積み上げる装置としての役割が改めて問われている。
多国間ルールと国内改革の接合
今回の議論は、国際ルールの更新だけでなく、各国の国内改革が不可欠であることも浮き彫りにした。競争政策やガバナンス、データ保護と越境移転の整合、技能育成や人の移動円滑化など、制度の見直しは各国の内政課題と直結する。外部リスクを口実とした保護主義に傾かず、透明で予見可能なルール形成が成否を分ける。
とりわけデジタルとAIの分野では、相互運用性の確保と消費者・企業の信頼醸成が鍵となる。越境データの流通、クラウド活用、サイバーセキュリティ人材の確保までを一体で捉え、域内の中小企業にも届く実装に落とすことで、包摂的成長の回路が開く。APEC発の「緩やかな規範」が各国の具体政策に橋を架けるかが次の勝負どころだ。
数字でみる今回の会期
会期は2025年10月27日〜11月1日（韓国・慶州）。首脳会議は第32回。参加は21のエコノミー。年次テーマは「Building a Sustainable Tomorrow: Connect, Innovate, Prosper」。主要論点は、多国間貿易体制の維持、供給網の強靭化、デジタル・AIを含む新領域協力、構造改革の次期ロードマップである。
