警視庁がブラジル国籍の男3人を逮捕、匿名アプリ指示で店舗に防犯見直し促す

施錠の内扉が開かず、残されたのは割れたガラスと置き去りの車だった。栃木県佐野市の宝飾店で起きた突入未遂から、警視庁などは7日までにブラジル国籍の男3人を建造物損壊や窃盗未遂などの疑いで逮捕した。高い秘匿性のアプリで指示を受けたとの説明もあり、匿名・流動型の犯行が地方の店舗を揺らす現実が、事件の経緯からにじむ。

入口に残った車と壊れた扉が示した足取り

6月16日未明、佐野市高萩町の時計宝飾店に乗用車が突っ込み、出入り口のドアガラスが破損した。複数の人物が販売エリアへの侵入を試みたが、内側の扉が施錠されていたため突破できず、エントランスのショーケースも割れなかった。やがて実行役らは車を置いたまま逃走し、店内に商品は残されたままだった。

現場の状況から、狙いは高額商品の短時間回収に置かれていたとみられる。店は以前にも高級腕時計の被害を受けており、入口の二重扉やショーケースの強度が結果的に足止めとなった。店側の被害はガラスや設備の破損が中心で、関係者によれば損害は大きく、営業への影響も避けられなかったという。

通報を受けた警察は窃盗未遂として捜査を開始し、残された車両や周辺の防犯カメラ映像を軸に足取りの解析を進めた。侵入に失敗しても車両を使う荒い手口は他地域でも散見され、県境をまたいだ連携が早期の情報共有に結びついたとされる。現場に残る破砕痕は、短時間での犯行計画が頓挫したことを無言で物語っていた。

3人の逮捕と「匿名・流動型」の影

7日までに、警視庁などは愛知県豊橋市のクリスチャン・ペレイラ・マチイ容疑者（21）らブラジル国籍の男3人を逮捕した。ほかに岐阜県坂祝町のワタナベ・ガブリエル・ツヨシ容疑者（22）と、同県可児市の解体作業員の19歳の男が含まれる。いずれも建造物損壊や窃盗未遂などの疑いで、販売エリアの鍵を開けられず、何も奪わずに逃走したとされる。

捜査関係者の説明では、実行役らは秘匿性の高いアプリを通じて指示を受けていたという。役割や人員が固定されず、短期間に顔ぶれが入れ替わる匿名・流動型の犯行グループとみられ、実行から撤収までの段取りが細かく共有されていた可能性がある。認否や具体的な関係性の立証は、押収品の解析や通信履歴の突合が鍵を握る。

現場の強化ガラスや内扉に阻まれ実行が不発に終わった構図は、店舗側の物理的対策が一定の抑止力を持ったことも示す。約800万円規模とされる損壊の負担は重いが、商品流出を免れたことで被害は限定的になった。逮捕で捜査は一段進んだが、背後の指示系統や資金の流れの解明が続く見通しだ。

地方の店舗を狙う突入型、にじむ対策の課題

暗号化した通信、使い捨ての連絡手段、役割を切り替える実行役。地方都市のロードサイド店舗を狙う突入型は、短時間の破壊と回収に手口を寄せ、逃走車や中継役を柔軟に差し替えることで足取りを薄める。事後の解析に時間がかかる構造が、匿名・流動型の利点になっている。今回の未遂も、その輪郭をなぞるような動きが重なっている。

一方で、二重扉やショーケースの強化、侵入遅延を狙ったボラードやシャッターの増設、閉店後の照度管理、近隣との通報ネットワークなど、店舗側の対策は重層化しつつある。県境をまたぐ情報共有や、車両・通信データの突合を軸にした広域捜査の定着も、実行役の回転を鈍らせる。物理とデジタルの双方で、時間を稼ぐ工夫が要点になる。

貼り替えられたガラス越しに、客が立ち止まって品定めをする。日常は戻りつつあるが、静かな鏡面にはひとときの衝撃が薄く残る。事件が残したのは、壊された扉だけではない。動き続ける犯行の形に、街がどう呼吸を合わせていくかという課題でもある。