本サイトの記事や画像はAIが公的資料や報道を整理し制作したものです。ただし誤りや不確定な情報が含まれることがありますので、参考の一助としてご覧いただき、実際の判断は公的資料や他の報道を直接ご確認ください。[私たちの取り組み]
ソウル中心部のオフィス街にあるアームの看板の下へ、韓国公正取引委員会の職員が書類箱を抱えて入っていった。英Arm Holdings(アーム)のソウル事務所ではいま、半導体設計の利用権であるライセンス契約のあり方をめぐる調査が静かに進んでいる。きっかけは、長年のパートナーである米Qualcomm(クアルコム)が、アームが自社技術へのアクセスを不当に絞り、競争条件をゆがめていると訴えたことだ。半導体産業の基盤を支えるライセンスモデルそのものが問われつつある。
韓国公取委の立ち入りと、争点となる「開かれたネットワーク」
2025年11月19日、韓国の独占禁止当局がアームのソウル事務所を調査していると、事情に詳しい関係者の話として報じられた。公正取引委員会は今週、予告なしに事務所を訪れ、資料の確認などを行ったとされる。今回の焦点は、アームが世界中の半導体メーカーに提供してきたライセンスの条件が、公正な競争を保つものになっているかどうかだ。スマートフォンや家電などの多くはアームの設計に依存しており、その契約の在り方は一国にとどまらない影響を持つ。
クアルコムは、アームが20年以上「開かれたネットワーク」として多くの企業に技術を開放してきたにもかかわらず、近年は自社に有利な形でアクセスを制限していると主張している。具体的には、一部の技術について利用条件を厳しくしたり、取引先によって扱いが異なるのではないかという疑念だ。技術の利用権であるライセンスは、誰がどの条件で設計図を使えるかを決める仕組みであり、その線引きが変われば市場構造も揺らぐ。アーム、クアルコム、韓国公取委のいずれも詳細なコメントを控えており、外からは調査の中身が見えにくいだけに、疑問と緊張だけが静かに積み上がっている。
長年の協力関係から法廷闘争へ、広がる国際的な波紋
もともとアームとクアルコムは、スマートフォン時代をともに築いてきた関係にある。アームが提供する省電力に優れたプロセッサー設計を、クアルコムが自社のチップに組み込み、サムスン電子などへ供給してきた。その協力関係があったからこそ、クアルコム側は「かつては広く開かれていたはずの技術が、今は絞られている」と感じているのかもしれない。両社のあいだではすでに、クアルコムによる米スタートアップNuvia買収後のライセンスをめぐり、2022年から米国で訴訟が進んでいる。今回の韓国での申し立ては、その延長線上で国際的な舞台に広がった争いとも言える構図だ。
一方で、韓国公取委はクアルコムを被告とする別の事件で、過去に約1兆ウォン規模の課徴金を科した経験を持つ。標準必須特許と呼ばれる通信技術の特許ライセンスが不当に運用されていたとして争われたこの件では、2023年に韓国最高裁がおおむね公取委側の判断を支持している。かつては規制当局と対立したクアルコムが、今回は「被害を訴える側」として同じ当局の扉をたたいたことになる。特許やライセンスをめぐる力関係が、技術そのもの以上に産業の姿を左右している現実が、ソウルでの新たな調査からも浮かび上がる。
世界中の機器に組み込まれる見えない設計図をめぐる攻防は、ガラス張りの会議室の内側で今も静かに続いているように見える。