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アサヒグループホールディングスが外部からのサイバー攻撃を受けて国内の受注・出荷システムが止まってから、29日で1カ月となる。現場は電話やファクス、手入力で供給をつなぎ、出荷は段階的に再開しつつある。だがシステムの復旧はなお見通せず、新商品発売や情報開示の計画にも影響が広がっている。
止まった画面の横で、進む手作業
静かな工場の片隅で、止まった端末の横を伝票の束が行き交う。受注データは電話やファクスで集め、担当者が表計算ソフトに手入力する。サイバー攻撃の直後、国内の受注と出荷が同時に止まり、現場は「紙と人」に戻った。週内には手作業での緊急出荷が始まり、まずは店頭の欠品を抑える動きが広がったと映る。
それでも品薄感は拭えない。一部の小売やコンビニでは、人気商品が一時的に売り切れる場面が報じられた。国内のシステムに限定した障害で、海外拠点は影響を受けていないとされるが、国内市場の需給は細い糸でつながる。人海戦術での出荷は続き、在庫の偏りをならす作業が続いているとみられる。
工場と営業が同時に汗をかく日々が続く。優先順位をつけた計画出荷で、看板商品の供給を先に確保し、飲食店や量販店向けの出荷量を少しずつ積み上げる。普段は見えないサプライチェーンの継ぎ目に、人の手が差し込まれる光景が浮かぶ。
続くシステム停止と延期の連鎖
発端は2025年9月29日。外部からの不正アクセスにより、国内の受注・出荷やお客様相談室などのシステムが広範に機能不全となった。同社は被害の範囲を調査しつつ隔離と復旧を進めているが、10月14日の段階でもシステムによる受注と出荷の再開には至っていないと報じられた。復旧の道筋はなお長い。
攻撃はランサムウェアによるものとみられ、犯行声明を出したとされるグループ名も浮上した。だが、同社は詳細の言及を控え、原因や流出の有無は精査中としている。復旧作業の一方で、イベントの中止や新商品の発売延期など、周辺の計画にも連鎖的な調整が生じている。
経営のタイムラインにもずれが出た。10月14日には7〜9月期の決算発表を、法令上の45日以内から後ろ倒しにすると公表された。会計システムへのアクセスを含めた影響が広がったためで、開示の具体的な時期は復旧状況を見極めて決めるとされた。攻撃の影響が、工場の現場だけでなく資本市場にも及ぶ構図である。
偏在解消へ、現実的な一歩を積み重ねる
目の前の最優先は供給の安定である。計画出荷や受注制限を伴いつつも、工場と販売の現場は、紙ベースの受注や手入力を繰り返し、出荷を少しずつ前に進める。システムの全面復旧までは時間との闘いが続くが、手作業でも物流を動かす姿勢が、品切れの波を抑える一手となっているとみられる。
年末に向けて需要がふくらむ中、在庫の偏りを小さくし、地域や業態ごとの欠品を減らすことが課題だ。復旧が段階的である以上、出荷量の拡大と流通の平準化をどう両立させるかが問われる。現時点で確認されている範囲では、同社は国内外のシステムを切り分け、被害の拡大を防ぎながら供給の底を支えている。
一連の混乱は、製造から販売までを貫くデジタルの脆弱性をあらためて示した。平時からの手順書や訓練、代替ルートの設計が、サイバー攻撃下の事業継続を左右する。今回の経験は、同社だけでなく、国内のものづくり全体に共有されるべき教訓となる。手触りのある現場の努力が、復旧までの橋渡しとなっている。
