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チェコのパベル大統領は12月9日、10月の議会選挙で第1党となったポピュリスト政党ANOの党首、アンドレイ・バビシュ氏(71)を新たな首相に任命した。2017〜2021年に続く3度目の就任で、約4年ぶりの政権復帰となる。新政権には反EU・反移民色の強い極右政党「自由と直接民主主義(SPD)」と、EUの環境・気候政策に反発する「モーターリスト」が加わり、下院200議席中108議席の多数派を握る。ウクライナ支援やEUの環境・移民政策を見直すと公言する新内閣の誕生は、市民生活とEUとの距離をどう変えていくのかが問われている。
物価と安全保障のはざまで揺れる市民
AP通信やチェコメディアによると、新連立は年金や賃金の引き上げを掲げる一方で、エネルギー価格の高止まりやインフレに不満を抱く有権者の支持を集めてきた。モーターリストは自動車依存の強い地方を基盤とし、EUが進める厳しい排ガス規制や電動化のペースを「庶民の負担」と批判している。こうした声を背景に、新政権は気候変動対策よりも当面の生活コスト抑制を優先させる構えだ。
一方、前フィアラ政権はロシアの侵攻後、ウクライナへの軍事・人道支援の中核を担い、多数の避難民を受け入れてきた。ロイターやEuronewsによれば、バビシュ氏はその路線を見直し、チェコ主導で進めてきた弾薬共同調達構想も縮小する意向を示している。対ウクライナ支援が絞られれば、短期的には財政負担の軽減が見込める一方、「連帯」を重視する市民からは反発も出かねない。物価と安全保障、どちらを優先するのかという難しい選択が、有権者の前に突き付けられつつある。
大統領の「条件」とバビシュ政権の計算、EUへの波紋
今回の任命には、パベル大統領の強い警戒感もにじむ。AFPやチェコ報道によれば、大統領は就任の前提として、バビシュ氏に巨大コングロマリット「アグロフェルト」からの実質的な撤退を求め、同氏は資産を信託に移すと約束した。過去にはEU監査で利益相反が問題視されており、今回の措置は「透明性の確保」が狙いとされる。同時に大統領は、EUやNATOとの結び付きは揺るがせないと強調し、新政権に対し法の支配と同盟重視の姿勢を維持するようくぎを刺した。
しかし、バビシュ氏はここ数年で中道寄りの実務家から、ハンガリーのオルバン政権やスロバキアのフィコ政権に近い右派ポピュリストへと立ち位置を変えてきた。Anadolu AgencyやXinhuaなどの報道では、同氏がEUの移民・環境政策に批判的で、対ロシア制裁やウクライナ支援でも慎重姿勢を取ると指摘されている。チェコがEU内で「懐疑派ブロック」の一角として発言力を強めれば、日本を含む他国にとっても、対ロシア制裁や気候政策を巡るEU合意形成の行方を占う試金石となる。パベル大統領の示した「同盟との距離を守れ」という条件と、バビシュ政権が掲げる「自国優先」の路線がどこで折り合うのか。チェコ国内だけでなく、欧州全体がその歩みを注視している。
