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棍棒が振り下ろされ、石が飛んだ。2025年11月8日、ヨルダン川西岸ベイタ近郊で、オリーブを収穫するため集まった住民や活動家、取材中の記者らがイスラエル人入植者の集団に襲われた。ロイターの写真記者ラニーン・サワフタさんと同行の警備顧問グラント・ボーデンさんも負傷。収穫期の現場で繰り返される暴力の深まりが、生活と報道の安全を同時に脅かしている。
収穫の場で何が起きたか
目撃情報によれば、数十人規模の男たちが棒や棍棒を振るい、大きな石を投げ、収穫に集まっていた住民や支援者、そして取材に入っていた複数の報道関係者を次々と殴打した。サワフタさんは防御姿勢のまま繰り返し攻撃を受け、ボーデンさんは身を挺してかばう途中で打撃を受けた。現場ではカメラ機材の破損も確認された。
2人はヘルメットと「PRESS」と明記した防護ベストを着用していたが、ヘルメットは大きくへこんだ。救急車でナブルス市内の病院に搬送され、診察と治療を受けた。ロイターは当局に徹底調査と責任追及、記者の安全確保を求める声明を発出。イスラエル国防軍は報告を受けて兵士を派遣し、暴力を非難すると述べ、警察が追加の調査を進めるとしている。
広がる暴力と季節の重なり
西岸では近年、入植者による襲撃が繰り返され、ガザでの戦闘が始まって以降に件数が増えたと指摘されてきた。10月から始まるオリーブ収穫期には緊張が一段と高まり、今年は国連機関も暴力の増加に強い懸念を示す。入植者（西岸で住宅地を築き居住するイスラエル人）と地元住民の接触が密になる時期だけに、収穫の場が標的となりやすい。
オリーブは多くの家計を支える現金作物で、木々は家族の歴史と重なる資産でもある。短い収穫の機会を守るため、住民に加え支援者や国際ボランティアが同行することも多い。だが、道を閉ざす妨害や暴力が起きれば、収穫は損なわれ、生活の糧と土地へのアクセスそのものが細る。人道機関の集計でも、この季節の被害が突出しているとの警告が重なる。
取材の安全と責任の所在
今回の襲撃では、明確な「PRESS」表記と防護装備を備えた報道チームも被害に遭った。報道の安全は公共の知る権利を支える前提であり、現場での識別と連絡手段の確保、当局の介入の迅速さが鍵になる。西岸の取材現場では、その基本が守られない場面が続いているとの指摘が出ている。
ロイターは捜査と説明責任を求め、国防軍は暴力を非難すると表明した。声明が実効性を伴うかは、被害者への聴取と加害者の特定、司法手続きの可視化にかかる。収穫期は続いており、現場の安全を確保する措置が速やかに整わなければ、同様の事態が繰り返される恐れは残る。
