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アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が、ふたたび「CEO」という肩書を名刺に戻そうとしている。米紙ニューヨーク・タイムズは2025年11月17日、ベゾス氏が人工知能スタートアップ「プロジェクト・プロメテウス」の共同CEOに就くと報じた。設計や製造など物づくりの現場にAIを持ち込み、宇宙船や自動車、コンピューターの開発のあり方を変えようとする試みであり、同氏がアマゾン退任後に本格的な経営の前線へ戻る動きとして注目されている。
ベゾス氏がAIスタートアップの共同CEOとして経営の現場に復帰
ニューヨーク・タイムズの報道によると、ベゾス氏は新会社プロジェクト・プロメテウスで共同CEOを務める。2021年7月にアマゾンのCEOを退いて以来、同氏が企業の経営トップとして日常的な意思決定に関わるのは初めてとされる。これまで投資家や会長として事業を支える立場が中心だったが、今回は自らが前面に立ち、スタートアップの舵取りを担う役回りだ。
もう1人の共同CEOとなるのは、物理化学を専門とする研究者であり起業家でもあるビク・バジャージ氏だ。同氏はグーグルの先端研究部門「X（ムーンショット・ファクトリー）」でセルゲイ・ブリン氏と共に大胆な研究プロジェクトに取り組んだ経歴を持ち、その後ヘルスケアやライフサイエンス分野のベンチャー立ち上げにも関わってきた。大規模テック企業での研究経験とスタートアップ経営の両方を知る人物が、ベゾス氏とペアで組む体制となる。
ベゾス氏は宇宙企業ブルー・オリジンの運営にも関わり続けてきたが、日々の経営判断を伴う役職からは距離を置いていた。今回の新会社では、資金提供者にとどまらず共同CEOとして組織づくりや事業戦略に踏み込むとみられ、従来の投資案件とは重みが異なる。巨大テック企業の創業者が、再び比較的小規模な組織の現場に入り、産業の変化を仕掛けようとしている構図だ。
62億ドルを集めた新会社が目指す「物づくりとAI」の融合
プロジェクト・プロメテウスは、立ち上げ初期にもかかわらず62億ドルの資金を調達したと伝えられている。その一部はベゾス氏自身の資金であり、創業段階のスタートアップとしては世界でも屈指の規模だという。一般的な新興企業が少人数で小さく始めるのに対し、この会社は創業時点から巨額の研究開発費と採用費を前提に、長期戦を見据えた体制でスタートしようとしている。
同社の狙いは、AIを使ってコンピューターや自動車、宇宙船といった複雑なハードウェアの設計・製造を高度化することだとされる。具体的には、部品の組み合わせをシミュレーションして最適な設計案を導き出したり、工場の生産ラインの動きをデータから学習させたりするような応用が想定される。チャットボットのように画面の中だけで完結するAIではなく、物理的な製品や設備と結びついたAIに重点を置く点が特徴だ。
海外報道によれば、同社は「デジタル経済」ではなく工場や輸送、エネルギーなど実体を持つ産業領域に焦点を当てる姿勢を打ち出している。設計工程を仮想空間で何度も試し、試作や実験にかかる時間とコストを削ることができれば、自動車や航空宇宙といった分野の開発サイクルは大きく変わる可能性がある。ベゾス氏が長年関心を示してきた宇宙開発とも接点があり、物理世界のインフラ構築にAIを活用する構想の一端とも読める。
トップ研究者が集う組織づくりと、激化するAI人材争奪戦
ニューヨーク・タイムズなどの報道では、プロジェクト・プロメテウスの従業員数はすでに約100人に達しているとされる。その中には、オープンAIやディープマインド、メタなど、AI研究の最前線を担ってきた企業から移籍してきた研究者も含まれるという。創業間もない企業が、こうした人材をまとめて採用できる背景には、先の巨額資金と、ベゾス氏の実績や知名度があると考えられる。
近年、生成AIやロボティクスの発展に伴い、優れた研究者やエンジニアをめぐる競争は世界的に激しさを増している。プロメテウスは、既存のAI大手と同じ分野でモデル開発を競うのではなく、製造業や宇宙産業など実際のモノづくりと結びつく領域に軸足を置くことで、差別化を図ろうとしているようだ。現場のデータと科学的な実験結果を組み合わせて学習させるアプローチは、理論偏重のAIとは異なる強みを持つ可能性がある。
一方で、オープンAIやグーグル、メタなど既に巨大な計算資源と人材を抱える企業が先行している分野も多く、新興企業にとっては容易ではない環境でもある。ベゾス氏が率いる新会社は、豊富な資本と経験豊かな経営陣を武器に、その隙間をどう見つけていくのかが問われる。詳細な製品やサービスの内容はまだ公表されていないが、物理的な産業に焦点を当てたAI企業がどこまで存在感を高められるのか、今後の動きが静かに注目を集めている。
