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夜の冷気が残るワシントンで、司法省の一報が走った。2025年10月17日、米司法省はボルトン元大統領補佐官を機密情報の不適切な取り扱いに関する罪で起訴したと明らかにした。起訴は計18件に及び、1件当たり最大で禁錮10年の重い刑が並ぶ。政権批判の急先鋒でもある同氏に対し、政治の思惑と国家機密の線引きが改めて問われる局面が広がっている。
何が起きたのか
司法省の発表によれば、メリーランド州の連邦大陪審が16日に起訴状を返し、ボルトン氏(76)を国家防衛情報の送信8件と不法保持10件で訴追した。いずれも機密情報の扱いを定める連邦法違反にあたり、有罪なら各件で最長10年が科されうるとされる。量刑は最終的に連邦量刑ガイドラインなどを踏まえ裁判所が判断するとみられる。
起訴状の骨子として、同氏がトップシークレット級を含む防衛情報を、個人のメールやメッセージアプリなど業務外のアカウント経由で送信したとされる点がある。さらに、自宅で国家防衛情報に該当する文書を保持した疑いが並ぶ。文書には外国の指導層や脅威に関する分析、入手源に触れる内容が含まれていたとされ、扱いの重大さが浮かぶ。
捜査はFBIボルチモア支局が担い、司法省国家安全保障部門とメリーランド地区の連邦検察が公判を担当する。司法省のトップは「法の下の一律性」を掲げ、地位にかかわらず違法な機密取り扱いは追及する姿勢を強調した。事件番号と所掌の列挙は、組織としての覚悟を印象づける。
何が問われているのか
法的な焦点は、国家防衛情報(NDI)の「送信」と「保持」がどの範囲で成立するかにある。検察は、2018年4月から2025年8月にかけ、同氏が親族2人に日々の業務メモなどを電子的に共有したと主張する。共有の過程には出版準備をめぐるやり取りが含まれたとされ、私的な連絡と公務情報の境界が裁判の主要争点になりそうだ。
各罪の上限刑は10年だが、量刑は件数の合算だけで決まらない。事実認定の内訳、被告の役職や機密区分、情報の拡散実態などが勘案されるとみられる。検察はまた、同氏の個人メールが退任後にサイバー攻撃を受け、機密相当情報にアクセスが及んだ可能性を指摘する。情報管理の連鎖リスクをどう評価するかも審理の鍵である。
これに対し、ボルトン氏側は違法性を否定し、政治的動機をにおわせる介入を批判する構えだと伝えられる。起訴は推定無罪の出発点にすぎず、立証は検察側に課される。起訴状の詳細な証拠開示、証人の信用性、機密指定と公開プロセスの扱いなど、法廷での丁寧な線引きが求められる局面である。
政治の空気と波紋
ホワイトハウスの廊下で足早に質問を受けたトランプ大統領は、「ボルトン氏は悪いやつだ」と語った。かつて大統領補佐官(国家安全保障担当)として政権にいた同氏は、その後距離を取り、回顧録や講演で厳しい批判を重ねてきた経緯がある。政権との確執の歴史が、今回の刑事訴追に濃い影を落として映る。
一方で、司法の独立性をめぐる視線は厳しい。司法省は「誰も法の上にいない」との原則を強調するが、政権中枢と距離を置く人物が相次いで法廷に立つ構図は、恣意的運用との疑念を呼ぶ。出版と表現の自由、国家安全保障、そして公務情報の取り扱い――三つ巴の価値が交錯し、言論空間にも緊張が広がっている。
今後は初回出廷の日程や保釈条件の有無、証拠の扱いが焦点となる。現時点で出廷期日の記載はなく、検察が描く「送信」と「保持」の構図に、弁護側がどこまで反証を積み上げるかが見どころだ。政治の雑音を切り離し、事実と法に沿った審理が担保されるか。法廷の静けさが、社会のざわめきと対照的に響いている。