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対中輸出を載せた荷が動き出した直後、北京の会見場でマイクが上がった。中国外務省の毛寧報道官は2025年11月7日、検査や監視でリスクが見つかれば法律に基づき必要な輸入制限を講じると述べ、監視を緩めない姿勢を明確にした。独自のサンプリングと国際的な監視の継続も日本側に求め、再開は条件付きの歩みであることを印象づけた。
監視強化と「必要な措置」
会見で毛氏は、日本産水産物の輸入監督を「厳格に続ける」と強調した。食品安全は国家の基盤であり、仮に異常が確認されれば、直ちに法に基づく輸入制限を発動する方針だという。輸出再開という新しい局面に入っても、制度面ではブレーキをいつでも効かせられる構えを見せた格好だ。行政手続きや検査体制は、短距離走ではなく持久戦の設計になっている。
背景には、福島第1原発の処理水を巡る対立の記憶が色濃く残る。中国側は一貫して「核汚染水」という表現を用い、リスク評価の前提から相互認識の差が横たわる。輸入監督の運用でも、警戒の度合いは容易に下がらないだろう。こうした言葉の選び方は、外交メッセージであると同時に、検査現場の基準設定にも影響する。再開しても、慎重さを求める空気は続く。
制度の実装は、通関の一点にとどまらない。加工施設の登録、ロットごとの証明、輸送ルートの管理など、流通の節々に追加の確認点が置かれるとみられる。輸出側の現場では、人員配置や検査の前倒し、記録のデジタル化といった「見える化」の強化が鍵になる。監督が強い分、トレーサビリティの精度が商機を左右する構図が浮かぶ。
独自モニタリングの要求
毛氏は日本側に対し、国際的な監視に加えて中国による独立したサンプリングとモニタリングの継続を改めて求めた。監視の多層化は、相互信頼の不足を補う設計でもある。第三者評価だけでは埋まらない不安に対し、自ら測定し、そのデータで政策判断を裏づける枠組みを維持するという発想だ。再開を支えるのは合意文言よりも、日々積み上がるデータと記録になる。
独自測定の継続は、技術面のすり合わせを伴う。採水地点の選定、分析手法、報告様式の統一など、細部の一致がなければ比較可能性は確保できない。日本側にとっては、既存の国際枠組みと重複させず、負担を管理しながら透明性を示す工夫が問われる。中国側にとっては、測定結果と輸入管理の運用をどう結びつけ、政策の予見可能性を示すかが信頼の分かれ目になる。
言葉の応酬に見えて、実務は静かに進む領域でもある。測定の頻度や閾値が明確になれば、輸出企業は必要な検査計画を織り込み、突発的な止まりを避けやすい。逆に、不確実性が残れば、出荷直前の追加検査や証明の差し替えが生じ、コストや納期に跳ね返る。独自モニタリングの具体は、外交の争点であると同時に、物流の安定に直結する現場の条件でもある。
再開の動きと残る課題
今週、北海道産ホタテの出荷が対中向けに動いた。2025年11月5日に初便が伝えられ、止まっていた取引の歯車が少しずつ回り始めた格好だ。期待が先行する一方で、運用初期は手続きの確認や検査の待ち時間が増えやすい。取引先との連絡体制、港での受け入れ手順、証明書類の発行速度など、目に見えにくい摩擦をどう減らすかが焦点になる。小さな改善の積み重ねが、翌週の便の確実さを左右する。
一方で、すべての産地や品目が同時に戻るわけではない。対象外が続く地域や条件も残るとみられ、サプライチェーンは当面、複線運用を迫られる。販路の再構築や在庫の持ち方、為替や輸送費の変動への耐性も試される。再開というニュースはゴールではなく、継続可能なオペレーションへの入り口だ。会見場の張り詰めた空気が緩むころ、港では次の船積みに向けた書類の束が静かに積み上がっている。
