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12月2日、尖閣諸島（沖縄県石垣市）周辺の日本の領海内に中国海警局の船2隻が入り、近くで操業していた日本の漁船に接近する動きを見せた。日本側の巡視船が漁船と中国船の間に入り、領海外への退去を求めたという。同海域での中国公船の領海侵入は11月16日以来とされ、現場の漁業者にとっては「ニュースではおなじみ」になりつつある緊張が、日常の海の風景に重なり始めている。
波立つ漁場と心、繰り返される「にらみ合い」が残すもの
尖閣周辺は、本来ならばカツオやマグロを追う漁船が行き交う豊かな漁場だ。だが近年、この海域に出る石垣の漁師は、魚群探知機だけでなく、レーダーや無線で中国公船の位置を確かめながら操業することが増えたとされる。中国海警局の船が接続水域や領海のぎりぎりを動き、日本側の巡視船がその動きを追う構図が、漁に出るたびに繰り返されている。
領海侵入が起きると、日本側は漁船の近くに巡視船を配置し、針路の変更を指示するなど安全確保を優先する。3月には、同じ海域で機関砲を備えた中国公船が長時間にわたり日本漁船に近づこうとした事案も報じられた。網を入れるタイミングを逃したり、早めに引き揚げざるを得なかったりすれば、漁獲高だけでなく燃料費や人件費にも響く。地元にとっては、安全保障の問題が家計の数字に直結し始めている。
「一時侵入」という表現は、外から見れば短時間の出来事に映るかもしれない。しかし、11月16日にも4隻の中国公船が領海に入ったように、似た事案が積み重なれば、漁師にとっては「いつまた来るか分からない」不安として残る。若い世代が沿岸漁業から離れかねないとの懸念も地元にはあり、海の緊張は静かに地域の将来像を揺さぶっている。
同じ海をめぐる別々の主張、中国海警と日本側の「物語」
今回の事案について、ロイター通信は、中国側が「自国の領海に日本漁船が侵入したため、追い払った」と主張していると伝えた。一方、日本の海上警備当局は、日本漁船は自国の領海で操業しており、中国公船こそが不法に侵入したとの立場だ。同じ出来事を巡って「誰を守ったのか」「どの海を守ったのか」という説明が正反対になる構図が鮮明になっている。
日本政府は、尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、領有権の問題は存在しないと繰り返してきた。これに対し中国は「釣魚島」と呼び、自国の管轄海域だと主張し、海警局の船を公船として常態的に展開させている。中国は沿岸警備を担う海警局に強い権限を与えており、海上での「法執行」を名目に、主権の主張を行動で示す方針がうかがえる。
一方で、日本側も第11管区の体制強化や巡視船の増強を進め、領海警備を「日常業務」として切れ目なく続けている。2月には、中国公船が尖閣周辺の接続水域を約3カ月にわたり連続で航行したことが明らかになった。こうした長期にわたるプレゼンスの維持は、国際社会に向けたメッセージでもあり、両国の主張は外交文書だけでなく、海上での行動パターンとして表れている。
東シナ海と南シナ海、海の前線に立つ生活者をどう守るか
尖閣周辺での緊張は、東シナ海にとどまらない。南シナ海では、中国海警局や海上民兵とみられる船が、フィリピンの補給船などに放水や接触を繰り返していると、各国メディアが伝えている。日本とフィリピンという別々の国の沿岸住民や漁師が、同じように「日常の漁場で突如、国際政治の最前線に立たされる」という構図になっている点は見過ごせない。
日本は、同盟国である米国との連携を軸にしつつ、沿岸国どうしの協力や海上保安機関同士の対話も模索している。偶発的な衝突を防ぐためのルールづくりと同時に、現場を守る装備や人員への投資が求められ、限られた予算の中で何に優先順位を付けるかが課題だ。防衛力強化の議論は、軍艦やミサイルだけでなく、日々海に出る人々の安全と表裏一体になっている。
領海侵入が「またか」と受け止められるほど常態化すれば、そのコストはまず地元の漁師と地域経済が負うことになる。緊張の管理と抑止力の強化、そのどちらを重視するにしても、最前線に立つ生活者をどう支えるのかという視点が、これからの海洋政策の中心に据えられるべきだろう。
