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中国側が動いた。11月14日夜、在日中国大使館が日本への渡航を当面控えるよう通知を出し、翌日には航空各社が払戻対応を相次いで公表した。発端は高市早苗首相の台湾有事をめぐる国会答弁だ。強い言葉が往来の細りへつながり、日中の緊張は日常の足元に影を落としている。
渡航自粛の呼びかけと相次ぐ抗議
14日夜、在日中国大使館がSNSの微信で、日本への渡航を「当面避けるよう」とする通知を出した。投稿は、日本の指導者による台湾をめぐる発言が民間交流の雰囲気を損なったとし、在留・渡航者の安全に重大なリスクがあると警戒を促した。中国の大手航空3社は日本路線の払い戻しや変更の無償対応を示した。
外交チャンネルも強い調子で動いた。13日、中国外務省は金杉憲治駐中国大使を呼び、発言の撤回を要求した。大阪の薛剣総領事がSNSで過激な表現を投稿して物議を醸し、東京は中国大使を呼んで抗議した。与党内では総領事への厳正な対応を求める声が強まるなど、火種は拡大している。
外務省の林剣報道官は記者会見で、日本が台湾情勢に武力介入すれば侵略行為に当たり、断固反撃すると主張した。中国側が譲れない一線を明確に示したかたちだ。抑止のメッセージと国内向けの結束喚起の両面が重なり、言葉の硬化が次の措置へと連鎖する構図が見える。
火種となった発言と日本の法的枠組み
高市首相は7日の国会で、台湾をめぐる武力の行使が想定される場合、状況次第で日本の「存立危機事態」に当たりうると述べた。これは2015年の安保関連法で整備された集団的自衛権（同盟国などへの武力攻撃に対し限定的に武力行使を認める仕組み）の発動条件に触れる説明である。
歴代政権が保ってきた戦略的曖昧さ（具体的な関与の線を示さない姿勢）に比べ、首相自らが線引きに言及した重みは小さくない。本人は政府方針に沿う説明だとして撤回を否定しつつ、今後は具体シナリオへの言及を控える考えも示した。発言は、政策の文法に現実の温度を持ち込んだ。
法の設計は抑制的で、発動には武力攻撃の明白性や国会の関与など厳格な要件が並ぶ。他方で周辺の緊張は高止まり、条文は机上にとどまりにくい。今回の応酬は、「いつ、何をもって危機とみなすか」という問いを具体に引き寄せ、国内の備えと外交の言葉を同じ土俵に乗せた。
往来と備え、にじむ現実味
渡航自粛の呼びかけは、人の流れを細らせる最も直接的なカードである。観光や出張の計画は見直しを迫られ、航空各社の無償対応がそれに拍車をかける。交流の回復が続いていた都市部や観光地では、宿泊や小売の需給が短期的に揺れ、企業の対面商談にも遅延の波が及ぶ。
一方、南西の島々では、兆候が見える段階で住民を段階的に広域避難させる計画づくりが進む。先島を含む離島から本土側へ移す想定は、船や航空の確保、受け入れ地の生活支援、連絡の手順など具体の作業に落ちる。外交の緊迫とは別に、足元の安全を守る準備は粛々と続く。
首脳間の対話の回路も閉じてはいない。直近の会談では戦略的互恵関係（対立を限定し実務協力を進める考え方）を再確認した。だからこそ、往来を絞る措置の象徴性は大きい。硬化と対話の並走という二層構造のなかで、現場の備えと外交の節度が、しばらく緊張を帯びて共存しそうだ。
