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夜の駐車場に、ぶら下がったままの黒い被覆が揺れている。先端は無造作に切断され、充電スタンドは赤いエラー灯を点滅させたまま沈黙している。ロサンゼルスをはじめ各地で銅線盗難が広がり、街灯からEV充電器へと狙いが移ったとみられる。危険を冒しても得られる金はわずかという現実と、インフラを止める社会的損失の落差が、今まさに問われている。
夜の駐車場で何が起きているのか
現場の光景は単純だが深刻である。ケーブルが切られ、コネクターが消え、制御ユニットがこじ開けられる。復旧までの間、そのポートは沈黙し続け、出勤前に充電を当て込んでいた利用者の予定が狂う。街灯でも同様の被害が報告され、暗がりが増えることで地域の不安も増幅していると映る。
高電圧機器に手を出すこと自体が命がけであるうえ、スクラップとしての換金額は高くないという指摘がある。にもかかわらず被害が続く背景には、換金の受け皿がなお残っていることや、ケーブルが屋外で無防備に露出しているという設計上の弱点があるとみられる。被害は散発的でも、日々の信頼を削る。
現時点で確認されている範囲では、公共や職場の充電器での破壊・盗難が稼働率を押し下げている。1基あたりの修理費は部材と人件費で数百〜数千ドル規模に達するケースがあり、自治体や事業者の維持コストは無視できない。止まった充電器は、EV普及そのものへのブレーキとして重くのしかかる。
法と仕組みで「売り先」を断つ
州は刑事・行政の両面から包囲網を狭めている。2025年10月13日、ギャビン・ニューサム知事は金属盗難を扱う法案AB 476に署名し、関連する取り締まりの枠組みを前へ進めた。盗難の抑止や受け渡しの実態解明に向けた法整備が、現場の取締りと連動していく流れが強まっているとみられる。
一方で「直す力」を底上げする資金も動いている。2024年1月19日、カリフォルニア州運輸局は、連邦のEVC RAAから約6,370万ドルの支援を獲得したと公表した。州内300地点で1,000基超の充電器を修理・更新する計画で、古い設備を新基準に合わせる狙いがある。信頼性の回復は最も静かな抑止策でもある。
受け皿であるスクラップ市場の監視も鍵になる。販売者の身元確認や取引履歴の厳格化は、盗難品の流通を細らせる王道のアプローチである。英国でも一部報道によれば、破壊行為の犯人にインクを噴射して特定を容易にする装置の導入が議論されたという。売りにくく、持ち出しにくく、換金しにくい環境づくりが要る。
太いケーブル、ワイヤレス、そしてAIの出番
対策の選択肢は増えている。切断されにくい被覆や装甲ケーブルは抑止力になるが、重さや取り回しの悪さが利用者体験を損ねる。ワイヤレス充電はケーブル自体を消す発想だが、量産までには時間がかかるとみられる。結局は使いやすさと防犯性の折り合いをどこで付けるかが問われる。
AIを用いた監視は、現場の負担を軽くする余地が大きい。夜間の不審接近や繰り返しの滞留、工具の動きなどを検知して即時通報し、照明やサイレンと連動させる。基礎となるのは設備の健全なログと通信用の冗長化で、機器側の改ざん検知も重要だ。皮肉にも、こうしたシステムも銅線に頼る面があるのは確かである。
だからこそ、物理と制度と運用を束ねる複合戦略が要る。明るい配置計画とカメラ、即時修理の体制、スクラップ市場の監視、そして地域の目。州の資金で故障を素早く潰し、法律で流通を締め、事業者が設計で守る。イタチごっこで終わらせない道筋は、静かだが確実に形になりつつあると映る。
