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ワシントンの霞む早朝、連邦庁舎の廊下に小さなざわめきが走った。米司法省が麻薬カルテル対策の中核を担ってきたタスクフォースや、人種間の緊張緩和を担う部署を閉鎖する計画が、2025年10月3日に内部文書で明らかになったためだ。9月にボンディ司法長官が承認し、過去20年で最大級の再編と位置づけられる。何が変わり、誰に有利なのかが問われている。
閉鎖される部局と削減規模
今回の計画では、1980年代に発足し対カルテル戦の要であった「組織犯罪麻薬取締タスクフォース（OCDETF）」の閉鎖が柱に据えられ、人種・民族間の緊張を和らげる「コミュニティ関係局（CRS）」、司法アクセスの改善を担う「アクセス・トゥ・ジャスティス局」も対象に含まれるとされる。対象部局の重さから、現場の戸惑いがにじむ。
再編は約275のポスト削減につながり、少なくとも約140人が解雇または強制的な配置転換の対象となる見通しだ。文書は目的を「効率性と効果的なガバナンスの促進」と説明し、人員削減により1,100万ドル超の節減が見込めるとしている。数値はドライだが、背後にあるのは部局の消滅という現実である。
一方で、当初取り沙汰された麻薬取締局（DEA）とアルコール・タバコ・火器・爆発物取締局（ATF）の統合は見送られたとされる。ただ、国際刑事警察機構（インターポール）連絡機能の米連邦保安局への組み込みや、麻薬・資金洗浄の訴追部門の統合など、複数の機能は再配置の対象となるとみられる。静かな地殻変動が進む構図だ。
揺れる現場と批判の声
OCDETFは検察官主導で複数機関を束ね、重大な麻薬密売や資金洗浄のネットワークを長期で追い詰めてきた。1982年の創設以来、連邦検察、DEA、FBIなどの力を結集する常設の枠組みとして機能し、各地のストライクフォースが情報と人材を一体運用して成果を積み上げてきた。現場の連携の要が外れる懸念は大きい。
CRSは約60年にわたり暴動の火種を抱える地域に入り、対話と調停で緊張を和らげてきた歴史がある。アクセス・トゥ・ジャスティス局は、弱い立場の人々が法制度にたどり着けるよう支援し、行政手続きの摩擦を減らす役割を担ってきた。これらの機能が縮むことで、社会のほころびが目に見えにくく広がる恐れが浮かぶ。
計画には民主党議員や司法省OBから「重要業務に支障をきたす」との批判が出ている。元司法省弁護士で非営利団体を率いるステイシー・ヤング氏は、麻薬犯罪の訴追を含む法執行任務が痩せると指摘し、「再編ではなく破壊だ」と厳しく批判した。省側は効率化を掲げるが、現場の力学は簡単には置き換わらないと映る。
政権の狙いと残された問い
政権は1〜3月にかけて、連邦調達の集約や不要プログラムの整理など、官僚機構のスリム化を矢継ぎ早に打ち出してきた。司法省の再編はその延長線上に位置づけられ、「より効率的で効果的な連邦政府」を掲げる方針の具体化といえる。無駄の削減は納税者への説明として分かりやすく、政治的な追い風にもなる。
ただ、効率化の名の下に、組織知や長年の信頼関係まで削ぎ落とせば、取締や調停の質は低下しかねない。政権側は移民執行や国家安全保障分野への資源再配分を志向しているとみられるが、対カルテル戦や地域の火消し役を弱める「副作用」をどう抑えるのか。安全と権利のバランスは揺れている。
今後は対象職員への通知や部局統合の工程表が焦点になる。議会の関与や予算の再配分手続きも争点となりうる。現時点で確認されている範囲では、個別部局の閉鎖開始時期は明示されていない。誰のための再編なのか、そして偶然ではなく必然の選択なのか。静かな再配置の先に、司法の現場力が問われる局面が広がっている。
