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乾いた風が滑走路を渡るバルトラ島の空に、小型機の影が淡く伸びる。エクアドルのダニエル・ノボア大統領が2025年10月28日、ガラパゴス諸島に外国の拠点を設ける可能性に言及した。目的は違法漁業や麻薬・燃料の密輸対策とされ、憲法で禁じられてきた方針をめぐる是非は、2025年11月16日の国民投票で問われる見通しである。
バルトラ島に「守るための拠点」という発想
島の港に寄せる波の白さが強い日差しにきらめくなか、ノボア氏は2025年10月28日のラジオ出演で、バルトラ島の活用に踏み込んだ。違法漁業の監視や、太平洋を経由する麻薬・燃料の密輸対策に資する拠点になり得ると語り、「ガラパゴスを傷つけるためでも、譲り渡すためでもなく、守るためだ」との趣旨を示したとされる。治安対策と保全の両立を掲げた発言が浮かぶ。
同氏は具体的な駐留国名の明言を避けつつ、複数国が関与し得る監視・取締りのハブ像を描いた。違法漁業のコントロール、麻薬対策、燃料の不正流通の遮断を柱に据え、場合によっては米国の機関名を挙げながら連携の形をにおわせた、と伝えられている。単独の「基地」ではなく、任務ごとに機能を分けた常続的な運用のイメージがにじむ。
バルトラ島には空港があり、物流・運用の利便性は高い。他方で、島は観光と住民の日常が隣り合う現場でもある。監視機材や航空運用が増えれば交通や騒音、ライトの影響が生活と生態系に波紋を広げる懸念もある。治安の強化と島の静けさ、その均衡をどう描くかが問われていると映る。
憲法の禁制をめぐる問い、11月16日の一票へ
選挙管理を担う国家選挙評議会は2025年9月25日、国民投票の実施を決定し、日程を同年11月16日に定めた。投票のひとつは、外国軍の基地や軍事目的の施設を禁じてきた現行規定の削除を問うものだ。併せて政党への公的資金配分の見直しも問われ、複数の設問が同日に一本化される構図となった。
現行憲法は外国の軍事基地を禁じている。今回の設問はその「禁止」自体を外すか否かを問う体裁であり、場所・規模・装備・駐留人数などの細目は示されていない。すなわち、可決されても直ちに基地が建つわけではなく、二国間・多国間の合意や国内の手続きが別途必要になる。制度の扉を開くか閉じたままにするか、まずはそこが焦点だとみられる。
安全保障を最優先する層には支持が広がっている一方、慎重論も根強い。軍事目的の恒常的な施設が法的に可能となれば、将来の政策選択に長期の縛りを残すとの懸念があるからだ。投票は安全と主権、公共財政の配分まで絡む複合の論点を束ね、国の針路を測るリトマス試験紙になると映る。
生態系と主権、交差する懸念
ガラパゴスはエクアドル本土からおよそ1000キロ離れた太平洋上に浮かぶ島々で、進化の「生きた博物館」と称される独自の生態を育んできた。海流が交わる豊かな海、海イグアナやゾウガメなどの固有種、火山活動が刻む地形。世界遺産にも登録され、その価値を守るという言葉は決して比喩ではない重みを持つ。
治安の視点に立てば、拠点化は違法漁業や麻薬の流れを断ち、海と港の監視網を厚くする梃子になり得る。海域の見張りが強化されれば、生態系保全にも波及効果があるという期待があるのも事実だ。監視の可視化が抑止力となり、航路や補給拠点の摘発が犯罪の採算を崩す、そんな実利の絵も描かれている。
だが、その監視は誰が、どの権限で、どこまで行うのか。主権の管理権限と環境基準の運用をどう担保するのか。現時点で確認されている範囲では、運用の細目は公表されていない。拠点が島の生活と自然に与える負荷、外交の均衡に及ぼす影響も見通しは割れる。国民投票まで残された時間は短い。島の風景の先に、国家のかたちをどう結ぶのかが問われている。
