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がれきの野に黄色い標柱が点々と立つ。2025年10月26日、イスラエルはエジプトと赤十字国際委員会（ICRC）の捜索チームに、ガザでイスラエル人人質の遺体を探すための越境を認めたと伝えられた。停戦合意の履行を前へ押し出す一歩であり、家族に「見送りの時間」を取り戻す試みでもあると映る。
静かに開かれた越境の扉
薄い砂ぼこりの向こうに重機のエンジン音が低く響く。撤退線に沿って設けられた管理地点では、識別ベストの要員が無線で指示を交わし、緊張と安堵が交錯する空気が漂う。現地では、家族が写真を胸に抱え、知らせを待つ姿も見られたと聞く。静かな焦燥が広がっている。
現時点で確認されている範囲では、イスラエル当局がエジプトとICRCの協同チームに対し、イスラエル国防軍（IDF）が管理する撤退ライン「イエローライン」を越えて遺体捜索を行うことを認めたと説明されている。停戦の履行点検と安全管理を条件に、限定的な活動が想定されるとみられる。
エジプトの重機やトラックがガザ内のIDF管理区域に入るのは今回が初めてとみられる。家族は「せめて故郷で埋葬を」と願い、現場ではICRCが中立の仲介者として搬送動線や識別手続の整備に関与している。捜索の対象は、崩落した建造物の下層に及ぶ可能性が高いとみられる。
合意の第1段階と「イエローライン」
今月上旬に発効した停戦合意のもとで、IDFはガザ内部からの段階的撤収を進め、2025年10月20日までに「イエローライン」の標識を本格的に設置し始めた。高さ約3.5メートルのコンクリート基礎と黄色のポールが約200メートル間隔で連なり、現場の戦術的明確化を狙う措置だとされる。
この「線」は、武装衝突の再発防止と人道活動の安全確保を両立させるための境界として機能する位置づけである。10月14日にはICRCが、合意に沿ってイスラエル側へ死亡した人質4人の遺体を引き渡し、同時に45人のパレスチナ人の遺体をガザへ移送した。合意順守を促す声明も併せて出された。
遺体の収容は、広域の破壊と瓦礫の堆積が進む地形で難航が避けられない。捜索は安全確保の段取りがすべてであり、境界の設定や通行管理、識別・検視の手続が一体で動く必要がある。イエローラインは、その最小限の秩序を支える「基準線」として働くとみられる。
残された不確かさと家族の時間
合意は遺体の返還も含めて迅速な履行を求めているが、現場での捜索は一朝一夕には進まない。国際社会は返還加速を求める圧力を強め、調停役も履行監視の姿勢を崩していない。一方で、交戦当事者の間には依然として不信が残り、各地の通行許可や一時停電など、運用上の乱れも起きがちだ。
イスラエル側は、ハマスが遺体の所在を把握していると従前から主張してきたと報じられている。他方、ハマス側は空爆で崩壊した建物の瓦礫下に多くが埋没しているとして、収容の困難さを訴えてきた経緯がある。立場のずれは小さくなく、現場の作業員に重くのしかかる。
それでも、黄色い標柱に沿って小さく動き始めた重機の列は、約束を「形」に落とすための第一歩に映る。次に必要なのは、家族に確実な知らせを届けるまで止めないという、関係者全員の粘りだろう。越境の扉が一度開いた今、捜索と返還の流れを絶やさないことが求められている。
