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エネルギー省の長官が足早に準備を進めている。核実験の再開に言及するトランプ大統領に対し、核爆発を伴う実験は難しいと説く場を、ホワイトハウス側と持つためだ。国家核安全保障局（NNSA、エネルギー省の核管理機関）の長官も同席し、爆発を伴わない非臨界実験への転換案を提示するという。2025年11月14日に米CNNが報じた動きは、科学と政治の綱引きを露わにした。
政権内で何が動いたか
報道によれば、会合はホワイトハウスや国家安全保障会議と調整され、エネルギー・核関連の当局者が「爆発を伴う実験は支持できない」と政権上層部に伝える段取りだ。焦点は、方針を非臨界へと現実的に寄せられるかにある。科学チームは実務の見通しを携え、政治チームは抑止のメッセージをどう保つかを測る。CNNはこの溝を「思いとどまらせる」試みとして描いた。
一方で、権限と役割の線引きも浮き彫りになった。トランプ氏は2025年10月30日にSNSで核実験の開始を国防総省に指示したと表明したが、核弾頭の製造・試験や備蓄維持を担うのはエネルギー省傘下のNNSAであり、国防総省ではない。ホワイトハウスは「他国と同等の条件で核実験を行うよう指示」と説明し、エネルギー省は“思いとどまらせようとしている”との見方を否定した。
会合では、NNSA側が爆発を伴う実験は行わない方針を明確化し、実行可能な代替計画へ誘導する段取りとされる。ただし最終決定権は大統領にあるため、助言は政治判断の場に持ち込まれる。国内報道も「核爆発を伴う実験を容認せず」と要旨を伝えており、政権内の温度差はにじむ。
非臨界実験とは
非臨界実験とは、核連鎖反応を自己持続させない条件で核兵器材料の振る舞いを測る手法で、核爆発を伴わない。NNSAは2024年5月、ネバダ核実験場の地下施設PULSEで一連の非臨界実験を実施し、弾頭材料の物性データを取得したと発表している。これは安全性と信頼性を検証する「備蓄管理」の柱で、モデル化・シミュレーションを支える基礎になる。
米国は1992年以降、核爆発を伴う実験を自主的に停止しており、非臨界の枠内でデータを積み上げてきた。NNSAはゼロ・イールド（核出力ゼロ）の基準に沿って実験を設計し、過去の実施例と整合的に運用してきたという。2023年以降は実験頻度の引き上げ方針も示され、老朽化する材料の挙動を高精度で捉える投資が続く。
この枠組みは、地下で核爆発を伴う実験とは性格が異なる。後者では広範な環境影響や体系的な準備が前提となり、政治・外交の重みも一段と増す。今回、政権が「抑止のメッセージ」を重視しつつ、当局が「技術的現実」を説く構図は、非臨界の延長で安全性とデータを確保していく現行路線の手堅さを照らし出している。
抑止と統治のはざまで
トランプ氏は他国の動きに触れ、「同等の条件」を強調してきた。だが、当局は爆発を伴う実験に距離を置き、非臨界という既存の手段で必要な検証を続ける姿勢だ。抑止の象徴性と科学の実務が交差する場で、どこに折り合いを付けるか。今回の会合は、その接点を丁寧に探るための装置に映る。
また、権限が国防総省ではなくNNSAに集中している構造は、政権の衝動と専門機関の判断の間に自然な緩衝を生む。大統領の決定は最終的であっても、備蓄管理の知見や安全基準がプロセスに組み込まれることで、政策は段階的に調整される。制度が持つブレーキと舵取りの両面が、今回はっきりと見えた。
静かな地下の実験室で集められる数値が、派手な言葉より長く効くことがある。政策の速度と技術の手触りが離れすぎないうちに、着地点が形を帯びていく。
