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米国で過剰摂取死の震源とされる合成麻薬フェンタニルを巡り、緊張の空気がまた一段と濃くなった。メキシコ当局は2025年10月24日、中国籍の張志東（通称「Brother Wang」）を米当局に引き渡した。張は昨年10月にメキシコで身柄を拘束され、その後の自宅軟禁から今年7月に逃走していたが、国外で再拘束されていた。
メキシコ、逃亡の中国人容疑者を米国へ移送
メキシコ連邦政府筋は、張志東容疑者が10月24日に米国へ移送されたと明らかにした。米墨間ではカートテル対策と合わせ、フェンタニル供給網の遮断が最優先課題となっており、今回の移送は協力の可視化につながる動きと映る。国内で物議を醸した軟禁措置後の対応としても、司法と治安の足並みを示す象徴性がある。
張は2024年10月、メキシコ市内で米国の要請に基づき拘束された。だが審理の過程で自宅軟禁とされ、治安当局の監督下に置かれていた経緯がある。フェンタニル問題で国際的な圧力が強まる中、当局は一連の手続を急ぎ、国外での再拘束を経て米側への引き渡しに踏み切った格好だ。
逃走の経緯と国外での再拘束
現時点で確認されている範囲では、張は2025年7月11日にメキシコ市サンタフェ地区の軟禁先から逃走した。その後、キューバへ渡航し、さらにロシア入国を試みたが拒否され、再びキューバ側で身柄を確保されたと報じられている。高い機動力と巧妙な移動ルートが浮かぶ一方、監督措置の妥当性を巡る内外の視線も厳しさを増した。
国外で拘束後、張はメキシコ側の管理下に戻され、米国への移送に向けた手続が進んだ。今回の一連の過程は、逃走発覚からの追跡連携、身柄の確保、最終的な米側引き渡しまで、複数国・複数機関の調整を要する稀有なケースであり、各国の司法協力の実効性が試された事案だといえる。
米国での訴追内容と資金洗浄疑惑
張は米ジョージア州北部地区で2022年に起訴され、コカインやフェンタニルを含む国際的な密輸と資金洗浄の容疑を受けている。捜査当局は、米国内ではアトランタやロサンゼルスを拠点に流通と収益回収が行われ、収益はメキシコなどに還流したと指摘する。張は「Brother Wang」の通称で広域に活動したとされる。
一部報道によれば、張はシナロア、ハリスコ新世代などメキシコ有力組織との接点を持ち、2020〜2021年に少なくとも2,000万ドルを洗浄した疑いがある。企業実体のない法人を多数動員し、口座網を駆使して資金を分散させた構図が描かれている。米側は供給網の「結節点」として、張の役割を重く見る。
数字でみる本件の骨子は次のとおりである。2024年10月にメキシコで拘束、2025年7月11日に逃走、同年10月24日に米側へ移送。米国での訴追は2022年の起訴に基づく。資金洗浄は2020〜2021年に少なくとも2,000万ドル、ダミー法人約150社と口座約170により運用されたとされる。いずれも現時点の公表・報道ベースである。
米墨協力とフェンタニル対策の射程
本件は、フェンタニルの原料・流通・資金の各段で連なる越境ネットワークに対し、米墨が連携して圧力をかける一局面と位置づけられる。メキシコ国内では軟禁判断への反発や司法への不信が渦巻いたが、逃走後の追跡と最終的な移送は、対米協力の意思を示す材料となった。今後は関連ネットワークの解体が焦点となる。
一方で、フェンタニル危機は供給網の一角を断つだけでは収束しない。前駆体の規制、資金移動の封じ込め、国内外の需要側対策など、多層の手当てが要る。張の訴追が進む過程で、共犯関係や資金の流れに新たな光が当たり、追加の摘発につながる可能性がある。捜査の進展に伴い、公表情報の更新が続くとみられる。
