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真夏の光がまだ残る浅瀬で、枝分かれした白い影だけが揺れていた。フロリダの海で長く礁を築いてきた「エルクホーンサンゴ」と「スタッグホーンサンゴ」が、生態系での役割を失う「機能的絶滅」に追い込まれたとする研究が2025年10月23日に明らかになった。2023年に記録的な海洋熱波が続き、礁の骨格を組み上げる主役が消えつつある現実が突きつけられた格好である。
熱波の爪痕が残した「機能的絶滅」
研究は、フロリダのサンゴ礁を支えてきた2種が「もはや生態系の役割を果たせない密度」まで衰退したと結論づけた。背景には2023年の広域的な海洋熱波がある。過去150年以上で最も高い水温が観測され、熱ストレスはおおむね2〜3か月続いたとされる。高温が長引けば、サンゴは共生藻を失い、白化した骨格が露出する。回復の余地がある白化もあるが、極端な熱は回復力を奪い、死滅を加速させると映る。
白化はこの地域で少なくとも9回目の「大規模イベント」となり、複数のストレスが積み重なった。病気、水質悪化、過去の白化、そして度重なる嵐。そこに異例の熱波が重なり、礁の構造を支える枝状サンゴが一気に倒れた構図である。サンゴ礁は魚や無脊椎動物のすみかを提供し、沿岸を波と浸食から守る盾にもなる。主柱が抜け落ちれば、生態の複雑性が失われ、沿岸防災の力も細る現実が浮かぶ。
研究チームは「機能的絶滅」という言葉で状況を示した。数がゼロではないが、礁を築き維持する役割を担えない状態を指す。完全消滅の前段階となることも多い概念だ。今回の判断は、密度と機能の崩壊を捉えたもので、単なる一時的な白化の延長ではない。気候変動で熱波の頻度と強度が増す予測と重ねれば、時間との競争が続くとみられる。
現場が語る数字と、失われた密度
高温が続くさなか、研究者たちは素潜りと潜水で礁を歩き、枝状サンゴの実態を数で描き出した。対象はスタッグホーンとエルクホーンを含む計5万2000個超のコロニー、調査地点は391か所に及んだ。結果は非情だった。フロリダ・キーズとドライ・トートゥガスでは致死率が98〜100%に達し、群落は壊滅的な打撃を受けた。一方、やや離れたフロリダ東南沖の外洋域では約38%と低い致死率にとどまり、局所的な温度差が影響したと映る。
「残ってはいるが、礁を造り維持するのに足りる密度ではない」。研究に関わった生物学者はそう指摘した。枝状サンゴは波を砕く前線に立ち、礁の凸凹を形づくる要だ。密度が落ちれば、幼魚の隠れ場は薄くなり、波エネルギーを弱める力もやせる。数字の背後にあるのは、立体的な生息地の崩れである。南の礁での壊滅と北側の一部生残というコントラストが、機能の喪失という現実を強調している。
今回の壊滅は、長年の下り坂に最後の一撃を加えたにすぎないとも言える。病害、水質、嵐、過去の熱ストレスで枝状サンゴは細っていた。そこに2023年の異常高温が重なり、臨界を超えた。研究は、自然回復は見込みにくいとし、低密度と継続的な温暖化、複合ストレスを理由に挙げた。復元の射程を確保するには、これまでの常識に縛られない介入が要るとの指摘が広がっている。
それでも手はあるのか、次の一手を探す
研究チームは、海中と陸上に「遺伝子バンク」を築き、生き残った個体を保全している。養殖施設や沖合いの苗床で系統をつなぐ取り組みだ。耐熱性の高い遺伝的多様性を外部から導入する、サンゴの共生藻を工夫して耐熱性を底上げする、といった適応的な手法も提案された。とはいえ成功は未来の白化の頻度と強度に左右され、温暖化の加速が続けば成果は飲み込まれかねないと映る。
一方で、今回の教訓は世界の礁に向けた警鐘でもある。フロリダで起きた「機能の崩壊」は、他の海でも繰り返され得る。沿岸の暮らしと観光、漁業、生物多様性を支える基盤が揺らげば、損失は連鎖する。温室効果ガス排出の削減と、現場での的を絞った介入を両輪に、残された時間でリスクを削るしかない。希望は薄いのではなく、急がねば消える性質のものだと受け止めたい。
海の底に静かに立つ白い枝は、過去の繁栄の痕跡であり、未来への矢印でもある。礁の骨格をもう一度厚くできるかどうかは、私たちの選択と速度にかかっている。現時点で確認されている範囲では、科学は「まだ間に合う」と言う。だが猶予は短い。次の夏が来る前に、手を打てるかが問われている。
