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フランスで政権の慌ただしさが極まった。2025年10月6日、ルコルニュ首相がマクロン大統領に辞表を提出し、受理された。就任からわずか1日で内閣が総辞職し、ねじれた議会と人事への反発が露呈した。大統領府は与野党との最終交渉を首相に託し、合意の可否が国の針路を左右する局面に入った。
一夜で総辞職、パリの空気
秋の夕暮れ、エリゼ宮の門前には報道陣が集まり、静かなざわめきだけが広がっていた。大統領府は「首相が辞表を提出し、大統領が受理した」と短い文面で公表した。発表の簡潔さとは裏腹に、政権の空気は急速に冷え込み、政治の歯車がきしむ音が聞こえるようであった。
ルコルニュ氏は記者団に、各党に妥協の余地が乏しく「首相として職務を果たせる状況ではなくなった」と語ったとされる。与野党がそれぞれ自らの政策を丸飲みするよう求め、折り合いが立たなかった構図が浮かぶ。短命政権の象徴のような言葉が、今の国会の硬直を映している。
新内閣は前政権の枠組みを色濃く残した陣容だったとみられ、刷新を求めてきた野党の反発を招いた。過半数を欠く中道与党は閣僚人事で主導権を示したが、その強気がかえって協力を遠ざけた可能性がある。合意形成の糸口は、初日からほつれていたと映る。
マクロンの猶予と選択肢
大統領は危機の拡大を避けるため、野党との交渉を首相に委ね、共通基盤の形成を託した。現時点で確認されている範囲では、エリゼは対応の詳細を多く語っていないが、一部報道によれば8日夜までに一致点を探るよう促したという。時間はきわめて短い。
次の一手は三つに収れんする。新たな首相を指名して交渉を継続する道、議会を解散して総選挙に打って出る道、あるいは超党派・挙国的な布陣を模索する道だ。どれもリスクが大きく、誰に有利なのかも定まらない。偶然ではなく、制度の帰結としての袋小路が見える。
2024年の総選挙後に生まれた分断は根深い。前任の首相たちも財政再建の予算を巡り退いた経緯がある。歳出削減や増税を含む不人気な処方箋を、安定多数を欠く議会で通すのは難題だ。合意なき政権運営が続けば、国の統治はさらに摩耗するとみられる。
市場が映す不安、財政の重さ
市場の反応は早かった。フランス株の主要指数は約1.4％下落し、仏独の国債利回り格差は年初来の水準まで拡大したとの観測が広がった。ユーロも対ドルで下落し、政治の不確実性が資産価格に乗った格好だ。投資家心理の冷え込みは一夜で覆らない。
市場関係者は「問題は辞任そのものではなく、次に何が起こるかだ」と指摘する。銀行株の軟調やフランス国債のリスクプレミアム拡大は、先行きの統治能力への疑念の裏返しである。解散に踏み切れば不透明感は一段と増し、指名にとどまれば膠着が続くという読みが交錯する。
年内の予算成立が見通せなければ、行政の停滞は長引く。赤字の抑制という厳しい宿題は待ったなしで、合意形成のスピードが遅いほど痛みは増す。政治は市場を映す鏡ではないが、価格に映った警告は軽くない。パリの重たい空気は、しばらく晴れそうにない。
