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焦げた基板の匂いが残る通路で、作業員が灰を払い落とす。2025年9月26日、韓国・大田の国家情報資源管理院(NIRS)で火災が発生し、政府横断の情報基盤が広範に停止した。被害の中心には、中央省庁の職員が業務ファイルを保管してきたクラウド「G-Drive」の全焼がある。個々の机上を離れ、クラウドに託してきた行政の記憶が、現場の一室とともに消えた現実が浮かぶ。
何が燃え、どこまで止まったのか
火はNIRS大田本院の5階サーバールームを直撃し、政府が重要度1・2級に分類する情報システム96基が被災したと伝えられている。運用面ではNIRSが抱える647基の業務システムが一時的に影響を受け、政府ポータルや金融関連を含む複数のサービスが立て直しを迫られた。現時点で確認されている範囲では、停止直後から優先度に応じた復旧が段階的に進み、影響の分布が見え始めている。
復旧の歩みは数字にも表れた。9月29日 06:52時点で、停止した647基のうち39基が再稼働にこぎつけたと報じられ、同日 09:51には47基まで回復したとの発表が続いた。被災規模の全体像と復旧速度の差分が刻々と更新される中、国民生活に直結するシステムから優先的に立ち上げる方針が共有され、現場の判断と工程管理が問われていると映る。
一方、全焼した96基については、代替センターへの移設と再構築に最長4週間程度を要する見通しが示された。焼損機器の取外しや環境清掃、再展開に伴う設定・検証の手順は避けられず、平時の冗長構成が乏しいシステムほど時間を奪われる構図だ。火勢が収まった後も、復旧現場の時刻だけが早足で進む。
G-Drive焼失という現実―なぜ「バックアップなし」だったのか
今回の火災で象徴的だったのが、中央省庁の職員が日々の業務ファイルを保存してきた「G-Drive」の焼失である。重要システム群と同じサーバールームに置かれていたG-Driveは炎にのまれ、外部バックアップが存在しなかったため、保管されていたデータは復元不能とされた。現場の消火が終わっても戻らないものがある。その事実が各省庁の業務に陰を落としている。
利用の実態は数字が物語る。G-Driveは中央の74機関で導入され、登録ユーザーは約19万1千人、総容量は858TBに達していたとされる。一方で「中央省庁の国家公務員約75万人が対象だった」とする報道もあり、潜在的対象と実際の利用者規模に開きがあったことがうかがえる。誰の習慣が変わり、誰が旧来の保管に留まっていたのか。行政文化の差分がデータの生死を分けたとも映る。
「すべての業務資料はPCに残さず、G-Driveに保存する」との原則は、モビリティとセキュリティの両立を狙ったものだったはずだ。しかし、同一拠点・同一セグメントに集中配置されたストレージが単一故障点になっていたなら、設計思想は現実に試され、破られたことになる。冗長化やオフサイトのバックアップをどこまで制度化し、誰が監査するのか。今回の喪失は、その問いを強く突きつけている。
復旧の現場で積み上げるもの、次に備えるべきこと
初動から数日、政府は重要システムを優先して復旧の順位を定め、代替センターへの移設や設定のやり直しを急いだ。現地では要人の視察も相次ぎ、10月5日には所管官庁の幹部がNIRSを訪れ、バッテリー火災を含む大規模事故の再発防止策や施設点検の状況を確認した。現場に足を運ぶという行為は、一度失われた信頼をどう積み直すかのシグナルでもあるとみられる。
他方で、今回の障害はBCP(事業継続計画)の「紙の上の前提」を一枚ずつ剝がした。重要システム96基の再構築に4週間という目安が示されたが、業務の現場が求めるのは「いつ」「どこまで」の具体だ。オフサイト・バックアップ、テープ保管、クラウド間レプリケーション、権限とログの復旧順など、平時にしか仕込めない準備を誰が担保するのか。偶然か、必然か。問いは重い。
そして、G-Drive喪失の教訓は、保存の義務と保全の義務が同列であるべきだと教える。保存先をクラウドに一本化するなら、保全の多層化は不可欠である。分散配置、世代管理、訓練型のリストア演習。こうした当たり前の仕組みを、行政の巨大な情報資産にどう実装するか。復旧が進む一方で、制度と設計の手当ても同じ速度で進まなければ、次の火は別の場所で同じ記憶を奪うだろう。