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フラッシュが交差する会見場で、南アフリカのラマポーザ大統領とEUのフォンデアライエン欧州委員長、コスタ欧州理事会議長が並び立った。2025年11月20日、G20首脳会議の開幕を2日後に控えたヨハネスブルクで、両者は重要鉱物をめぐる協力覚書に署名した。電気自動車や風力発電に欠かせない金属資源を、どう掘り出し、どこで加工し、誰の利益につなげるのか。その問いに向き合う試みが、アフリカで初めて開かれるG20の舞台裏で静かに動き始めている。
採掘国から加工拠点へ 南アが描く鉱物バリューチェーン
今回の覚書は、単に鉱石を輸出するだけの関係から一歩踏み込む内容だ。南ア側の説明によれば、探鉱や採掘だけでなく、精錬やリサイクルまで含めた産業プロジェクトを双方で選び出し、共同で育てていく方針が盛り込まれている。ラマポーザ大統領は会見で、鉱物を「現地で加工し、価値を高めてから輸出する」ことで、南アがバリューチェーンの上流に移ると強調した。
南アはプラチナやマンガンなどの埋蔵量で世界有数だが、これまでは未加工の資源を外に出し、付加価値の高い製品は域外で生み出される構図が続いてきた。自国での精錬や部素材生産を増やせれば、雇用や技術、人材育成の面で国内に残る果実は大きくなる。その意味で今回の合意は、産業政策の転換を後押しする装置としても位置づけられている。南ア政府はG20議長国として、重要鉱物を包摂的な成長の柱に据える方針を掲げており、その一端が具体化した形だ。
ヨハネスブルクではG20と並行して、アフリカとG20諸国の間で重要鉱物の枠組みづくりを議論する会合も予定されている。ここでは「持続可能なバリューチェーン」や「地域の付加価値向上」が柱に据えられており、今回の南ア・EU協力もその流れの中に位置づけられる。資源をどう分け合うかだけでなく、どこで価値を生み出すかをめぐる交渉が、アフリカ側の発言力を試す場にもなりつつある。
EUが急ぐサプライチェーン再編と「中国リスク」
一方のEUにとって、この合意はエネルギーと安全保障を支える部品を確保するための一手である。電気自動車の電池や風力発電、データセンターやAI開発、防衛産業などには、多様な金属やレアアース(希土類)が欠かせない。現在、それらの多くを中国から輸入しているEUは、輸出規制や地政学的緊張による供給途絶のリスクを意識し、供給元の分散を急いでいる。フォンデアライエン委員長は会見で「クリーンエネルギーへの移行は、公正で信頼できる供給網にかかっている」と語り、危機感をにじませた。
EUは今回の南アとの協力に加え、レアアースの在庫を事前に積み増す構想や、約900万ユーロ規模の共同購入メカニズムの導入も検討しているとされる。これは加盟国がばらばらに調達するのではなく、一定の枠組みで買い付けることで、価格や供給条件の安定を図る狙いがある。ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、エネルギー供給の脆弱さを痛感したEUにとって、資源の「見えないパイプライン」をどう守るかは、ガス管や送電網と同じくらい重要な課題になりつつある。
重要鉱物は、単なる一次産品ではなく、エネルギー転換とデジタル化、防衛力を支える「基盤インフラ」の一部だという意識が双方で共有されつつある。EUが南アとの協力を深めれば、他のアフリカ諸国との連携モデルになる可能性もある。ただし、価格や環境基準、地域社会への利益配分をどう設計するかはこれからの課題であり、企業と政府、市民社会の三者が参加する長い調整が必要になるだろう。
多国間主義を守る象徴としての資源協定
今回の署名の場では、資源だけでなく政治的なメッセージも前面に出された。ラマポーザ大統領とEU首脳は、多国間主義や民主主義、人権、法の支配を共に守ると改めて確認している。米国がG20首脳会議への出席を見送る可能性が報じられる中で、南アとEUが肩を並べて合意文書にサインした光景は、分断が目立つ国際秩序の中で協調の余地を示そうとする試みとも受け取れる。
11月22〜23日にかけて開かれるG20首脳会議は、アフリカで初の開催となる。債務問題や気候資金など大きな議題が山積する一方で、首脳宣言が出せないとの見方もあり、成果への期待と現実のギャップは小さくない。その中で重要鉱物協定は、少なくとも1つの具体的な前進として位置づけられる。
会場となる都市の外では、依然として格差や失業に揺れる人々の日常が続いている。地下深くから掘り出される鉱石が、その生活の手触りにどこまで届くのかを問う視線が、静かに交錯している。
