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ガソリン代が、ようやく日常の感覚に近い水準へ戻りつつある。石油情報センターによると、今月1日時点のレギュラーガソリンの全国平均価格は1Lあたり164.8円と、約4年ぶりの安値になった。年末の旧暫定税率廃止を前に政府が補助金を増やしたことが背景だが、地方で車に頼る生活や、道路財源をどう支えるのかという新たな問いも浮かんでいる。
家計にじわり効く値下げ、それでも残る不安
1L164.8円という水準は、ロシアによるウクライナ侵攻前とほぼ同じ水準だ。長く続いた180円台の負担から比べれば、毎週満タンに給油する家庭や配送業者にとっては、月数千円規模の節約になる。地方の通勤や買い物で車が欠かせない世帯ほど、この下げ幅を現金収入に近い安堵として受け止めている。
第一生命経済研究所の試算では、旧暫定税率が廃止されれば2人以上世帯で年間約7600円、消費者物価指数も0.2ポイント程度押し下げられるという。ガソリンを多く使う地方や郊外では、家計のひと月分の光熱費に匹敵する効果だが、公共交通の利用が中心の都心部では恩恵は限定的で、負担軽減の地域差もにじむ。
一方で、燃料価格の下落がそのまま需要の増加につながるとは限らない。人口減少やハイブリッド車の普及を背景に、国内のガソリン消費は年2％超のペースで減少しているとされる。車が欠かせない地域でも、家計を守るために「乗らない選択」を増やしてきた人は多く、今回の値下げはようやく一息つける程度との受け止めが目立つ。
暫定税率廃止と補助金拡充、その狙いと裏側
ガソリン税の旧暫定税率は、1970年代に道路整備の財源を確保するため「当分の間」として導入された上乗せ分だ。現在は本則28.7円に加え25.1円/Lが課され、税だけで50円超が価格に含まれてきた。与野党6党は、この旧暫定税率を今年12月31日に廃止することで合意し、長年続いた「暫定」に区切りを付けようとしている。
急激な値下がりで年末に給油の駆け込みやスタンドの混雑が起きないよう、政府は11月中旬から石油元売りへの補助金を段階的に拡充している。補助額は年末にかけて最大で1Lあたり旧暫定税率と同程度まで引き上げられ、税を下げる前から店頭価格を少しずつ押し下げるねらいだ。実際に価格がどこまで下がるかは、原油相場や為替の動きにも左右される。
もっとも、税を減らす前段階で補助金を厚くする手法は、国の財政負担をさらに積み増す。コロナ禍以降続くエネルギー補助だけでも巨額になっており、「高所得者ほど車を保有しやすい」として、負担軽減の配分が公平かどうかを問う声もある。暫定税率をなくしても補助金が長期化すれば、結局は将来世代がツケを回されかねない。
道路財源と脱炭素、次に問われる選択肢
旧暫定税率の廃止は家計には朗報だが、道路や橋の維持管理を担う側には新たな課題を突き付ける。ガソリン税は一般財源化されつつも、地方の道路整備や老朽インフラ更新の重要な財源であり、税収が減れば長期的な補修計画の見直しが避けられない。地方自治体と国の間で、どこまでを一般財源で賄うのかという役割分担が改めて問われる。
同時に、ガソリン離れと脱炭素の流れの中で、どのような形で走行コストに環境負荷を反映させるかという議論も本格化しそうだ。電気自動車や公共交通への転換を後押しするなら、単純な値下げだけでなく、車種や走行距離に応じた課税や、都市と地方で異なる支援策など、多層的な制度設計が求められる。
今回の値下げは、家計を直撃してきた燃料高騰への一時の「休憩時間」といえる。しかし、誰がどの期間、道路と環境対策のコストを負担するのかという問いは残されたままだ。ガソリンスタンドの価格表示が下がった今こそ、暮らしと財政、そして地球環境のバランスをどう描き直すのかが静かに問われている。
