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検問所でトラックが止まり、帳簿を抱えた係員が荷台をのぞき込む。停戦の発効から1カ月余り、ガザでハマスの統治の手つきが戻ってきた。米国主導の停戦合意が第2段階に入る局面で、同組織は撤退も武装解除も受け入れるのか。現地では、価格と物流の取り締まりを通じて影響力を広げる動きが確かめられる。
広がる再支配の実感
第1段階が2025年10月10日に発効し、イスラエル軍が一部から後退すると、ハマスは空白となった地区で治安要員と行政機能を再配置した。協力者や窃盗犯などと断じたパレスチナ人の殺害が相次ぎ、数十人規模と伝えられる。恐怖による統制と秩序回復の線引きは、なお曖昧なままである。
住民への聞き取りでは、同組織は境界の検問や市場の巡回を強め、搬入品を記録しているという。燃料やタバコなど非公式な流入品には手数料が課され、相場をつり上げたと見なされた業者には罰金が科される、と商人らは話す。供給の細りが続き、統制は日々の値札に直結する。
一方で、モール経営者らは「秩序を保つための価格表を示す役人が回っている」と語る。混乱を鎮める行政と、恫喝を伴う支配が同じ場所で同時に進む。停戦は戦後の入口であるはずだが、住民が体で感じるのは、以前と変わらぬ監視のまなざしである。
停戦合意の構図と第2段階
停戦合意は段階的な枠組みだ。初期段階では人質・被拘束者の交換、部隊の段階的撤退、援助物資の拡大を進め、後半で恒久停戦と復興交渉に入る設計である。仲介は継続し、第2段階では統治の受け皿づくりが焦点となる。机上の工程表と地上の実務が、ようやく重なり始めた段だ。
米国の計画は、ハマスの武装解除と統治からの退場を前提に、国際的な安全保障支援と暫定行政の立ち上げを組み合わせる。ただ現場では、イスラエル軍の展開や境界管理の技術論が積み残され、停戦の綻びも断続的に報じられる。合意の文言と現実の力学に、ずれがにじむ。
この間隙を突くように、ハマスは「空白の管理者」として役所と警察の役割を再起動させている。統治の座に固執しているのか、次体制への橋渡しか。意思表示は揺れるが、住民が体で受け取るのは、検問や取り締まりという具体的な作法である。第2段階の重心は、そこをどう解くかに移る。
ガザ経済のひずみと統治の行方
ハマス政府の広報責任者イスマイル・サワブタは、タバコや燃料への課金は「不正確だ」と否定し、物価抑制と人道・行政任務に取り組むと説明する。実務官僚（行政の専門職）に統治を引き継ぐ用意があるとも語り、「移行をスムーズに進める」ことを目標に掲げた。言葉は移行を指し示す。
ただ、物価高の根は深い。物流は分断され、電力と燃料は慢性的に不足する。入荷が細るほど闇市場は肥大化し、取り締まりは新たな利権の温床にもなり得る。価格表の提示や罰金は短期的に混乱を抑える一方で、経済の自律回復を遅らせ、住民の不信を積み上げかねない。
停戦が続き、復興と治安の枠組みが実体を帯びるほど、誰が税や料金を定め、誰に説明責任を負うのかが問われる。ハマスが退くのか、影響力を陰にとどめるのか。統治の境界線が曖昧な時期ほど、暮らしの細部に権力の形が現れてしまう。
