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鼓動の変化を映す動画が会場に流れると、福田恵一医師は静かに経過を語った。慶応大発のHeartseedが進める、iPS細胞由来の心筋球を用いた世界初の治験で、手術から半年以上を経た患者で心機能の回復が示されたという。重い心不全に対し、移植に頼らない再生医療が輪郭を得つつある。
ハートシードが治験で心機能の回復を報告、重い心不全に新手
Heartseedは、福田医師の研究を基に、iPS細胞（さまざまな細胞に分化できる人工多能性幹細胞）から心筋細胞を大量に作製し、心臓へ戻す治療を試している。2025年11月に米国などの学会で示した内容では、手術後に半年以上を経た7人で大きな副作用はみられず、心機能の回復が観察されたと説明した。対象は重い心不全で、従来治療の限界を補う狙いだ。
治療は、心筋細胞をおよそ1000個集めた「心筋球」を心筋内へ注入し、拍動する筋肉を補う発想である。動画では、移植部位に一致して収縮が強まる様子が色調の変化で示されたという。比較では、心筋球を多く注入した患者で回復の度合いが高かったとされ、投与設計が効果を左右する可能性が浮かぶ。心筋球は微小な組織片のようにとどまりやすい点も利点だ。
同社が進める初期試験は10例規模で計画され、2025年2月3日までに登録が完了している。安全性の確認と併せて、心機能の指標や壁運動の改善を慎重に追う段階に入った。個々の症例で背景は異なるが、手術後の合併症を抑えつつ心機能を底上げできるかが焦点であり、回復の持続性やリズム異常の管理も検証の要となる。
開胸なしの投与法にも道、実用化に向けた次の一手
開胸手術の負担を避ける選択肢として、カテーテルで心筋球を届ける計画も動き出した。2025年11月に、カテーテル投与を想定した次段階の臨床試験に向け、必要な審査の30日間レビューが完了したと公表された。カテーテルは血管から挿入する細い管で、胸を開かずに心臓へ到達できる。適切な投与層へ確実に届ける器具の工夫が、治療の広がりを左右する。
同社は治療法としての承認を2027年に目指す方針を掲げる。量産と品質確保に向けては、製造受託の体制も整え、細胞の均質性や供給の安定化を追う。患者の状態に応じて投与量や投与回数を見極め、再入院リスクや生活の質の改善につなげられるかが鍵となる。治療適応をどう定義し、既存薬やデバイス療法とどう組み合わせるかも議論が進む。
いまは「どれだけの量を、どの経路で、どの層に届けるか」という実装の磨き上げが焦点だ。投与量の最適化で効果を高め、カテーテル化で負担を下げる。この二つの針路が合流したとき、心不全治療の景色は静かに変わっていくはずだ。
