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コンベヤーを流れるホタテの殻がぶつかり合い、北海道の加工場に乾いた音が響く。その現場で今、中国向けの注文が止まったという知らせを受けても、従業員たちは黙々と選別を続けている。台湾有事を巡る首相答弁をきっかけに中国が日本産水産物の輸入を事実上停止したと伝えられるなか、この貝はどの国の食卓へ運ばれていくのかが問われている。
ホタテ輸出、中国離れの裏で広がる新しい市場
水産庁によると、ホタテガイの輸出額は2022年に911億円あり、そのうち約51%に当たる467億円分が中国向けだった。だが2023年8月、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出開始を受けて中国が日本産水産物を全面停止し、23年の輸出額は689億円まで落ち込んだ。24年は695億円と持ち直し、25年も9月までに603億円に達し、中国抜きでも600億円台を維持する展開になっている。
支えとなったのが米国や台湾などへの販路拡大である。22年に輸出額の9%だった米国の比率は、24年には28%まで伸びた。台湾も12%から18%に増え、トップ5に入っていなかったベトナムが15%で3位に躍り出た。中国依存の縮小は、政府が設定した市場多角化支援金や、海外見本市への出展支援といった施策とも連動しており、特定の国に偏らない売り先づくりが水産政策の柱になりつつある。
北海道枝幸町の水産加工会社は、商社と組んで台湾向けの取り引きを増やし、中国からの注文が減っても出荷量は大きく変わらなかったと話す。函館市の加工会社もメキシコや欧州への販売を広げ、中国に頼らない体制を整えてきた。背景には、23年に政府が魚介類の急な在庫増に備える凍結保管や新規市場開拓のために約207億円の緊急対策を用意し、既存の800億円規模の支援枠と合わせて業界の転換を後押ししたことがある。
政治の波に揺れる中国市場、それでも残る不透明さ
中国による日本産水産物の輸入停止は、23年8月の処理水放出開始が発端だった。約2年続いた禁輸は25年6月29日に一部緩和され、福島など10都県を除く地域の水産物について条件付きで再開された。しかし11月、台湾有事に関する首相の国会答弁の後、中国政府はモニタリング強化を理由に再び日本産水産物の輸入停止を日本側に通告したと報じられ、政治的な緊張が経済取引を揺さぶる構図が改めて浮かび上がった。
それでもホタテ業界では、かつてのような大きな混乱は起きていない。東京大大学院の八木信行教授は、禁輸が再び長引く形になった一方で、米国や台湾などに販路が移ったため短期的な打撃は限定的だとみる。ただ、処理水は多核種除去設備で浄化し基準値以下に薄めて海に流す仕組みで、国際原子力機関も影響はごく小さいと評価しているが、中国の消費者心理や水産物ブランドへの影響が長期的にどう表れるかは読み切れないという。
中国向けの冷凍コンテナが動かない一方で、米国や台湾行きのトラックは今日も港を出ていく。荷さばき場で箱を積み上げる作業員たちは、送り先の国名が変わったことを意識する暇もなく手を止めない。政治の風向きが再び変わる日が来るのかどうかを確かめる術はないまま、海から揚がった貝だけが予定どおりに世界へと運ばれていく。
