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ノートパソコンの画面越しに、ヒューマン・ライツ・ウォッチの研究者が静かに言葉を選んだ。ヨルダン川西岸の難民キャンプから追われた家族たちが、10カ月たっても戻れないと語る。その証言をもとに、同団体は2025年初めのイスラエル軍の作戦を戦争犯罪であり人道に対する罪だと断じ、国際社会に行動を求めている。
HRW、ヨルダン川西岸の強制移動を「戦争犯罪」と断じる
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2025年11月20日、105ページの報告書「All My Dreams Have Been Erased」を公表し、ジェニン、トゥルカルム、ヌルシャムスの3難民キャンプから約3万2000人のパレスチナ人が強制的に退去させられたと結論づけた。作戦はイスラエル軍による組織的な軍事行動として実施されたとされる。
作戦名は「アイアン・ウォール」で、2025年1月から2月にかけて行われ、ヨルダン川西岸では1967年以降で最大規模の一斉移動と位置づけられている。これらのキャンプは1948年のイスラエル建国時に生まれた難民のため1950年代に設けられ、何百もの家屋が破壊されたまま、住民の帰還は禁じられている。
HRWは、追放から約10カ月がたっても住民の大半が戻れない事実を重く見ている。ジュネーブ条約は、差し迫った軍事上または安全保障上の理由による一時的措置を除き、占領地から民間人を強制移動させることを禁じる国際条約であり、同団体は今回の措置がこの原則に反すると指摘する。
追われた人々の10カ月と残されたキャンプ
報告書に携わったHRW研究員のミレーナ・アンサリ氏は、避難から10カ月後の時点でも「家族の誰ひとり自宅に戻れていない」と証言する。取材に応じた31人の避難民の多くは、親戚宅やモスク、学校、慈善団体の施設に身を寄せ、家と呼べる場所を失った暮らしを続けている。
住民の話によれば、イスラエル軍兵士は家々に踏み込み、室内を荒らした後、ドローン搭載の拡声器や地上部隊の命令で短時間のうちに退去を迫ったという。車いす利用者など障害のある人々は瓦礫や壊された道路の中を移動せざるをえず、必要な介助器具さえ持ち出せなかった事例も報告された。
軍は住民に対し、避難経路や避難先を体系的に示さず、避難所や食料、水といった基本的支援も提供しなかったとされる。HRWは、この強制移動がガザ地区での激しい戦闘と並行して進み、国際社会の目が届きにくい状況で行われた点も問題だと強調している。
責任追及と国際社会への呼びかけ
イスラエル軍はロイターへの声明で、武装勢力に利用されないよう民間インフラを取り壊す必要があったと主張し、作戦は「テロリスト」を標的としたものだと説明している。しかし、数万人規模の強制移動や帰還禁止の理由、住民がいつ戻れるのかについては、具体的な説明をしていない。
これに対しHRWは、難民キャンプの空洞化がアパルトヘイト(人種隔離支配)と迫害という人道に対する罪の一部だと位置づける。中央軍管区司令官アヴィ・ブルトゥ少将や、参謀総長を務めたヘルツィ・ハレヴィ氏とエヤル・ザミル氏、さらにベンヤミン・ネタニヤフ首相やイスラエル・カッツ国防相らも、指揮責任を含めた戦争犯罪の疑いで調査すべきだと名指しした。
報告書は各国政府に対し、関係当局者への制裁や武器輸出の停止、国際刑事裁判所(ICC)の逮捕状執行への協力などを求めている。ICCは戦争犯罪などを裁く常設の国際法廷であり、国連は西岸での軍事作戦と入植者暴力により2023年以降に約1000人のパレスチナ人が死亡し、家屋は1400棟超が損壊したと報告している。
人の気配が消えたキャンプの路地に壊れた壁と家具だけが残り、その静まり返った風景が、いまも帰れない3万2000人の時間の止まり方を物語っている。