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濁流の音が途切れないプチゴアーブの谷あいで、人々は泥の匂いをまといながら名簿を手繰っていた。ハイチの民間防衛局は10月29日、ハリケーン・メリッサの影響で少なくとも23人が死亡、17人が負傷、13人が行方不明と発表した。死者のうち20人は南部プチゴアーブに集中し、子どもが10人を占める。長雨と氾濫が重なった災害の連鎖が浮かぶ。
プチゴアーブに残る泥と名簿
夜明け前から、住民は校庭に集まり互いの安否を確かめていた。現時点で確認されている範囲では、死者23、負傷17、行方不明13。うちプチゴアーブでの死者は20人とされ、行方不明者も10人にのぼる。当初、同市の首長は死者25人と述べたが、その後に修正された経緯がある。数字の揺れは、捜索が続く現場の混乱を映す。
川の氾濫が町を分断し、濁流は生活道路を呑み込んだ。住民の証言を総合すると、雨は7〜8日にわたり続き、降り始めからの総雨量は300ミリを超えたとみられる。低地に水が滞り、山あいでは斜面が崩れている。子どもを含む犠牲の多さは、避難の遅れや夜間の増水が重なった可能性を示唆する。
教会の外では、泥を払い落とした毛布が干され、名前を書いた紙片が風に舞っていた。救助隊は家屋の基礎や川沿いを中心に探索を続けるが、通行不能の区間が捜索を阻む。現地では身元確認と支援物資の配布が急がれ、飲料水と衛生用品の不足が広がっているとみられる。
揺れたジャマイカ、続く停電と再開準備
メリッサがカテゴリー5の勢力で通過したジャマイカでは、通信や電力などインフラの被害が広がっている。政府は国の大半で停電が発生したと説明し、復旧要員の増員と配電網の点検を進めている。各地の基地局は予備電源での運用に移行し、道路の倒木撤去が続く。生活の足を支える燃料供給も課題だ。
空港の運用は段階的な再開に向けて整備が進み、人道支援物資を載せた便や商業便の受け入れが近く始まる見込みだという。空の便の再開は被災地にとって物流の生命線であり、医薬品や浄水用品の到着が待たれている。避難所では病児ケアや慢性疾患の薬切れへの対応も急務である。
一方で、豪雨後の衛生環境の悪化が懸念される。水道の断続により井戸水や雨水に頼る世帯が増え、下痢症などの感染症リスクが高まっている。公衆衛生当局は、煮沸と塩素消毒の徹底、廃棄物の集積回収を呼びかけている。停電の長期化が冷蔵保存食品の廃棄を促し、生活再建の負担が重なっていると映る。
メリッサはバハマをかすめ北東進、夜に再強化
米国立ハリケーンセンターによれば、10月30日12:00の公表で、メリッサは最大風速100mphのハリケーンとして北東へ時速約33kmで進み、中心は北緯24.3度・西経74.3度付近に位置していた。バハマ南東部から中部ではハリケーン警報が継続し、バミューダにも警報が出ている。トルクス・カイコスは強風域の警報下にある。
午後の時間帯は勢力が一時的に弱まりカテゴリー1とみられたが、夜には再び風速を増し、危険な高潮と豪雨が続いている。予報円は今後も北東進を示し、海上での加速とともに次第に弱まる見立てだ。ただ、帯状の雨雲が南の島嶼にかかり続ける恐れがあり、地形性の豪雨や土砂災害はなお警戒が必要である。
今回の雨は、すでに飽和した地盤に追い打ちをかけた。ハイチやジャマイカの山地では斜面崩壊の履歴が多く、河川の越水が集落を分断しやすい。避難の判断は夜間の視界不良や通信寸断で難しくなる。復旧の途上でも、二次災害を避けるため通行止めや立ち入り制限を守ることが生死を分けると映る。
支援の足音と、これからの焦点
米国務省は被災した各国に災害対応チームを派遣すると発表し、国際機関や周辺国も初動支援を拡大している。現地当局は空港と港湾の受け入れ能力を確保し、道路啓開と拠点物流の復元を急ぐ。まずは水と衛生、医療、応急仮設の3点に資源を集中し、生活再建の基盤を整える工程が鍵となる。
人的被害の集計はなお動く可能性がある。プチゴアーブの犠牲者数が修正されたように、捜索の進展や重症者の容体変化で数は増減しうる。現時点で確認されている範囲では、子どもを含む犠牲が多いことが重い。雨は止んでも水は引かない。危険箇所の特定と避難経路の再設計が、次の嵐への備えを形づくる。
