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英国政府の方針転換は、発表の言葉よりも先に現場を動かし始めている。難民保護を恒久ではなく一時の措置とし、永住許可までの道のりを20年へ延ばす構想が打ち出された。保護は30か月ごとに見直し、生活支援は義務から裁量へ移す。欧州人権条約第8条（家族生活の尊重）の運用方針も改めるとしており、詳細は2025年11月17日に公表される。抑止と受け入れ、二つの価値の折り合いが問われる局面だ。
英政府が難民制度を再設計、保護は一時化し20年に延長
政府は、難民の保護を恒久的な在留許可に直結させず、一時的な保護資格として扱う方針を示した。現行で多くの認定者が5年で到達していた永住許可は、原則20年に延ばされる。これにより、在留の安定よりも抑止と柔軟な見直しを優先する姿勢が前面に出る。制度の骨格に触れる変更であり、就労や住居、教育といった生活設計の前提が大きく揺れる。
保護資格は30か月ごとに再審査される見通しだ。審査の節目を短く刻むことで、出身国の情勢が改善した場合には資格の取り消しや送還が可能になる。逆に、紛争や迫害が長期化する地域からの避難者にとっては、長い不確実性が続く。家族が学校や職場で根を張るほど、更新ごとの緊張は高まりやすい。
内務相のシャバナ・マフムード氏は、制度への信頼回復と公正の両立を掲げる。記録的に膨らんだ申請件数や、小型ボートによる越境への反発が背景にある。ただ、恒久的な定住の道筋が細るほど、統合や自立を支える投資が後回しになりやすい。抑止が目的でも、長期の仮住まいは社会の分断を深めかねないという懸念が根強い。
支援の義務を裁量へ、働ける人や違反者は対象外に
2025年11月15日、内務省は一部の亡命申請者に対する住居や週次手当の提供を、法的義務から行政裁量へ切り替える方針を明らかにした。就労可能なのに働かない人や、法令違反・退去命令への不服従がある人は支援の対象外となる。支援の線引きが厳格化される一方で、就労許可や地域の受け皿が十分でない現実もある。
政府はまた、欧州人権条約第8条の「家族生活の尊重」の解釈を見直すと説明する。裁判所での適用を絞り、退去の執行を円滑にする狙いだ。条約そのものから離脱するのではなく、国内運用を整理するという立て付けで、家族の結びつきと公共の安全の均衡を問い直す。個別事情をどこまで汲むのか、法運用の舵取りが焦点になる。
支援の裁量化は、財政負担の軽減や不正抑止につながる半面、保護が必要な人まで取りこぼす懸念がある。支援縮小と就労促進は常に表裏で、住居や言語、保育の確保といった前提が欠ければ機能しにくい。制度を引き締めるほど、現場の目利きとセーフティネットの精度が問われる。
デンマーク方式を参照、30か月ごとの見直しが柱
今回の再設計は、欧州で最も厳しい部類とされるデンマークのモデルを参照する。デンマークでは、一時在留許可を起点に、期限ごとの再申請と情勢改善時の送還を組み合わせてきた。英国でも保護の更新を30か月ごとに設定し、状況変化に合わせた縮減ができるよう設計する。柔軟だが、市民生活には断続的な不安が残る仕組みだ。
「一時保護」は、危機からの避難を守りつつ、永住への自動的な歩みを止める考え方である。難民の定住を前提に社会統合を進めるアプローチとは対照的で、平時への回帰を見越した可逆性を重んじる。英国で導入されれば、教育や雇用、住宅市場の受け止め方も見直しを迫られるだろう。
制度の設計思想は似ていても、司法の文化や地方自治の役割、住宅事情は国ごとに異なる。デンマークの成果を英国にそのまま重ねるのは難しい。英国では既存の判例や救済手段が厚く、見直しには立法と運用の両面が要る。迅速な審査体制の整備と、地域社会が受け止めやすい配分の仕組みづくりが、移行期の鍵を握る。
政治と社会の分岐、制度への信頼をどうつなぐか
移民・難民を巡る関心は政治の最前線にある。海峡を渡る小型ボートや庇護申請の増加に敏感な空気の中で、政府は強い抑止を示す必要に迫られている。一方で、慈善団体や法律家からは、人々を長期の不安定さに置くことで統合が遅れ、むしろ社会コストがかさむとの異論も出ている。制度に対する国民の支持を保つには、厳格さと人間味の両立が不可欠だ。
詳細が公表される2025年11月17日以降、法案や実務指針の形が見えてくる。支援の線引き、審査の優先順位、家族の扱いなど、一つひとつが暮らしの具体に響く。抑止のメッセージを強めるだけでなく、地域で静かに積み重ねられてきた受け入れや自立支援をどう保つか。その手つきが、この制度の評価を決めていく。
