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炎が紙片をかすめた数時間後、若者の遺体が車中で見つかった。イラン西部アリグダルズのオミッド・サルラクさん（20代）が、最高指導者アリ・ハメネイ師の肖像を燃やす画像を10月31日に投稿し、翌日に死亡して発見された。警察は自殺とする一方、会葬者や活動家は当局の関与を疑い、説明は鋭く食い違っている。
焦点となった投稿と、その直後
サルラクさんは2025年10月31日、森の縁に立ち、ハメネイ師の肖像に火をつける自らの姿をインスタグラムに載せた。音声には廃位となった元国王モハンマド・レザー・パフラヴィの録音を添え、王制支持の意思をにじませた。投稿は地元で広く共有され、コメント欄には賛否が交錯した。
その数時間から翌11月1日にかけて、遺体は市内の競技場近くの車内で見つかったと伝えられる。そばには拳銃が落ちていたという。地元警察のアリ・アサドッラーイ署長は、頭部を撃った自殺だと説明し、動機は捜査中と述べた。国営通信や準機関紙も、この見立てを相次いで報じている。
現場の位置や発見時刻については報道で差異があるが、いずれも発見までの間隔は短い。投稿から間もないタイミングだったことが、疑念と臆測を膨らませた。友人らは、生前に身の危険をにおわせる連絡があったと証言しており、地域の噂話は週末の街に素早く広がった。
葬列に響いた声と、揺れる証言
3日に行われた葬儀では、数十人が「やつらに殺された」「ハメネイに死を」と叫び、棺の周りで拳を突き上げた。反体制メディアは現場映像を連続して配信し、遺族の「息子は殺された」という嘆きを伝えた。やりきれなさと怒りが、狭い葬列の道に折り重なった。
一方で、父親はその後、地元の国営テレビに応じ、ソーシャルメディアの情報をうのみしないよう呼びかけた。米国在住のレザー・パフラヴィ氏はXで、サルラクさんを「自由のために命をささげた」とたたえた。公的説明と市民の受け止めは、近い距離で遠く離れている。
反体制メディアは当局が遺体の引き渡しを渋ったと伝えたが、当局側は事実と異なると退けている。テレグラムやXを介した断片的な映像は、見る側の立場で意味が反転する。近しい人の涙声と、画面越しの合唱が交錯し、事件は次第に“象徴”として消費されていく。
強まる締め付けと波紋
抗議の波から3年を経て、当局の取り締まりが強まっているとの指摘は根強い。6月の12日間の戦闘を挟み、処刑件数や摘発の急増を懸念する声が国際機関からも相次ぐ。外部からの圧力と内政の締め付けが同時に進むなか、今回の死の扱いは、社会の緊張にさらに影を落とした。
権威者の肖像を焼く行為は、侮辱罪などの対象になりうるとされる。当局は自殺と結論づける一方、会葬者らは他殺を疑う。鑑識手続きの結論や詳細は公表が限られ、判断材料は乏しい。静まらないざわめきだけが残り、墓前に置かれた花の色が、街の空気に長く滞留している。
こうした齟齬は、2019年以降に繰り返された“自殺発表”をめぐる不信とも響き合う。刑事手続きの透明性や独立した検証の余地が問われるなか、1つの死が公共空間の緊張を測る指標となる。声を上げる人、沈黙を選ぶ人、その間を揺れるまなざしが残っている。
