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米内国歳入庁（IRS）が、政府機関の一部閉鎖が続く中で３万４０００人超の職員を一時帰休に踏み切る。開始は１０月９日で、全体の約４６％に当たる規模だ。納税者向けコールセンターやIT部門、本部機能が広く止まり、税務行政の心臓部が静まる。政府閉鎖の長期化が現場の手当を奪い、秋口の照会や各種手続きに遅れが広がると映る。
IRSの窓口が静まった日、止まる業務と残る業務
電話の音が途絶えたコールセンターを想像すれば、影響の輪郭が見えてくる。IRSは１０月９日から一時帰休を実施し、３万４０００人超、全職員の約４６％を自宅待機とする。最も打撃を受けるのは納税者対応の窓口で、国税関連の相談や照会への即応が難しくなる。IT運用の現場や本部の多くも止まり、内部の意思決定や業務連携の遅延が不可避とみられる。
一方で、完全に暗転するわけではない。７月に成立した税・歳出法の施行に直結する任務に就く職員は、例外として勤務を続ける見通しだ。税制改正の実装や関連システムの切り替えに伴う最低限の作業は走らせるという判断である。必要最小限の灯を残しつつ、広範な業務が鈍るという、いわば「動かしながら止める」運転が強いられている構図が浮かぶ。
今回の一時帰休は、あらかじめ織り込まれていた段取りでもある。IRSは９月３０日付で、政府閉鎖が５営業日を超えた場合に帰休へ移行する方針を示していた。政府閉鎖は１０月１日に始まり、週をまたいだ時点で条件がそろった格好だ。現場の担当者は段階的な縮小運転を経て、いよいよ本格的な停止区画を増やす局面に入ったといえる。
揺れる「遡及支給」めぐる綱引き
制度面でも波紋が広がっている。IRSの人事担当幹部は、職員宛て文書で一時帰休となる職員への賃金の遡及支給を、２０１９年に成立した法律が義務付けていると説明した。現時点で確認されている範囲では、閉鎖が解ければ未払い分は後日まとめて支払われるとの読みが立つ。生活設計に直結する論点だけに、現場の安心材料となるはずだ。
ただ、その見通しに政権側からの逆風も重なる。政権は今週、同法の適用が自動的な支払いを意味しないとの考えを示唆し、線引きに揺らぎを持ち込んだ。法の趣旨と財政運営の硬直性が正面衝突する形で、解釈の余白が政治交渉の具にもなる。誰に有利なのか、偶然なのか必然なのか――一時帰休の現場をよそに、首都の駆け引きは続いている。
労働側は即時の再開を求める。連邦政府職員を組織する大手労組のトップは、政府を一刻も早く開けるべきだと強く訴えた。８０万人規模の組合員を抱える団体だけに、現場の疲弊や士気の低下を抑えたいとの危機感がにじむ。賃金の遡及支給の確実性と、休止期間の長期化リスクを天秤にかければ、先に扉を開けるべきだという主張が前面に出る。
政治の着地点と納税者への余波
閉鎖の発火点は、歳出合意をめぐる行き詰まりにある。与野党と大統領の協議は難航し、民主党指導部は医療保険制度の補助延長を合意に盛り込むよう求めている。歳出配分と社会保障の優先度が同じテーブルに乗り、税と支出の設計図が政治の駆け引きに巻き込まれる。合意の枠組み次第で、税務当局の再稼働の速度や人員復帰の順番も左右される展開である。
納税者の実務に落とせば、影響は地味に深い。コールセンターの応答停止は、延長申告や更正請求、照会への対応を遅らせ、滞留した案件が翌週以降に雪だるま式に積み上がる。ITのメンテナンスが止まれば、電子申告や情報照会の裏側で動く検証処理も遅延する。行政の信頼は待ち時間の長さに如実に現れるだけに、再開後の挽回策が早急に問われる局面だ。
一時帰休は単なる「節目」ではない。税務行政の現場を細く保ちながらも、国民に届くサービスは確実に痩せる。９月３０日に示された方針通り、５営業日超での帰休移行というルールは守られたが、ルールがあっても痛みは残る。政治の着地点が見えない今、税の執行と国民生活の接点をどう守るか――その問いが静かに広がっている。
