イスラエルがレーザー迎撃「アイアンビーム」完成　年内に軍へ初期能力引き渡し

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2025.12.02

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イスラエル国防省は12月1日、高出力レーザーでミサイルや無人機を撃ち落とす迎撃システム「アイアンビーム」の開発が完了し、12月末までに最初の能力を軍に引き渡すと公表した。テルアビブで開かれた防衛技術会議で、防衛省研究開発局トップが「戦場のルールを変える」と強調している。ガザやレバノン方面からの度重なるロケット攻撃にさらされてきた市民にとって、それは避難サイレンの鳴りやまない日常をどこまで変えうるのかという問いでもある。

ロケットの雨の下で、新しい「光の盾」は何を変えるのか

今回のレーザー配備でまず問われるのは、迎撃コストを劇的に下げる技術が、市民の安全と不安のバランスをどう変えるかだ。イスラエルは長年、「アイアン・ドーム」などのミサイル防衛で多数のロケット弾を撃ち落としてきたが、1発あたり数万ドル規模ともされる迎撃費用が重くのしかかってきた。高価な迎撃弾に比べ、レーザーは1回数ドル程度とされ、同じ予算で対処できる攻撃の回数が大きく増えると見込まれている。

アイアンビームは、短距離ロケットや迫撃砲弾、無人機などを対象に、目に見えない光のビームを照射して空中で破壊する仕組みだ。射程はおおむね10kmとされ、既存のミサイル防衛が拾いきれない「近すぎる脅威」を埋める役割を担う。国境近くの町では、これまで着弾まで数秒しか猶予がなく、シェルターへの駆け込みが間に合わないケースもあった。レーザーによる迎撃が重ねられれば、爆発そのものを減らし、物理的な被害だけでなく心理的負担の軽減も期待される。

一方で、レーザーが万能の「魔法の盾」になるわけではない。濃い雲や砂嵐の中ではビームが乱され、性能が落ちると指摘されているほか、目標に一定時間照射し続ける必要があるため、大量同時攻撃には限界もある。イスラエル軍は、ミサイル迎撃とレーザー迎撃を重ねる多層防衛の一部として運用する方針で、国境地帯の住民は、守りが厚くなる一方で、戦闘が長期化すれば自分たちの頭上で新旧の迎撃手段が同時に稼働する日常が続くことも覚悟せざるを得ない。

防衛当局と産業界が賭ける「安い一撃」、その狙いとリスク

今回の発表は、イスラエルが今後も続くとみる多正面での消耗戦に備え、「守る側の財布を守る技術」へのシフトを明確にしたものだ。国防省の研究開発部門は、数年にわたる試験でロケット弾やドローンの迎撃に成功したと強調し、12月30日に軍へ初期能力を引き渡すと説明した。迎撃1回あたりのコストが桁違いに下がれば、長期戦で弾薬が不足するリスクを抑えつつ、政治的な制約の中でも継戦能力を維持できると見込んでいる。

背景には、国内防衛産業をテコ入れする狙いもある。イスラエル政府は2025年、レーザー迎撃システムの大量生産拡大に向けて、地元企業との間で約20億シェケル規模の契約を結んだと報じられている。これにより、光学技術や電源システムといった関連分野も含めた投資と雇用が広がる一方、国家全体としては防空にさらに大きな予算を振り向けることになる。高価なミサイルの支出を抑えられるとしても、新たな装置の維持・更新費用は長期的に積み上がっていく。

さらに、技術に依存する構造そのものが新しいリスクを生む。高出力レーザーは膨大な電力と高度な制御ソフトウェアを必要とし、発電インフラや指揮システムが攻撃やサイバー妨害を受ければ、一気に性能を発揮できなくなる可能性もある。開発過程で、システムには殉職した特殊部隊隊員の名にちなんだ愛称が付けられ、象徴的な意味づけもなされたと伝えられる。「光の盾」は、技術的優位と記憶の継承を重ね合わせつつ、その維持コストと脆弱性を社会全体で引き受けるプロジェクトでもある。

中東に広がるレーザー防空の波、軍拡の次のステージへ

イスラエルは、アイアンビームを「世界で初めて実戦配備に達した高出力レーザー防空システム」と位置づけている。だが、その試みは孤立したものではない。中東では近年、安価なドローンや巡航ミサイルの拡散に直面する湾岸諸国などが、新たなレーザー兵器の導入を急いでいる。これまで「ミサイルVSミサイル」の構図だった防空競争は、「安く撃ち込める攻撃手段」と「安く撃ち返せる迎撃手段」のせめぎ合いへと姿を変えつつある。

米国を含む他の同盟国も、イスラエルの技術に注目している。中東の米同盟国の一部は、自国の防空網にレーザーを組み込む構想を検討しており、イスラエル企業は輸出市場を見据えた派生型の開発も進めているとされる。一方で、レーザーは天候に左右されやすく、高高度の弾道ミサイルには向かないなどの弱点もあり、既存の防空システムを完全に置き換えるものではない。各国は、限られた予算の中で、どの脅威にどれだけレーザーを割くかという難しい選択を迫られている。

イスラエルにとって、アイアンビームは国境の町を守る「最後の一枚の盾」であると同時に、地域全体の軍拡競争を一段押し上げる可能性もはらむ。迎撃コストを抑えることで、長期戦での防衛持久力は高まるが、結果として紛争そのものが長引き、前線の市民が戦時下の生活から抜け出せないリスクもある。誰がどの期間、この新しい防空インフラのコストと影響を負担するのかという問いは、レーザーの光が空を走るたびに、より重くのしかかっていくだろう。