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白い車列が国境を離れると、積み込まれた棺は識別のため静かに運ばれていった。イスラエル側は赤十字を通じてガザから遺体1体の引き渡しを受けたと明らかにし、国内の法医学機関で身元確認に進むという。ハマスは同日、シェジャイア東部で発見した遺体の引き渡し予定を事前に通知していた。戦闘の傷跡が濃い地域で、合意に沿った返還の歩みがまた一歩進んだ。
赤十字を介した引き渡しの手順
ハマスの軍事部門は、2025年11月5日 03:00に遺体を引き渡すと告げ、調整は赤十字が担った。対象はガザ市東部のシェジャイアで見つかったとされ、軍の後退線に近い地帯での捜索結果だと説明している。イスラエル側は引き渡しの事実を確認し、手続きに従い法医学センターに移送して鑑定を進める段取りだ。現場での回収や搬送では安全確保が最優先となり、検視やDNA鑑定までに時間を要するのが通例である。
捜索はがれきや不発弾の除去と隣り合わせで進むため、重機の投入や動線の確保が鍵になる。引き渡し後は、まず家族への通知が行われ、正式な身元確認が終わるまで当局の管理下で保全される。いずれの段階でも赤十字が仲介役として関与し、移送の安全性と人道的配慮を担保する枠組みが続いている。こうした手順の積み重ねが、合意履行の信頼を下支えしている。
相互の返還が進む中の数字
遺体返還の全体像では、ハマスが合意した28人のうち20人の遺体をすでに返しているとされる。今回の1体はその流れに連なる動きだ。一方、イスラエルは合意の枠組みに基づき、パレスチナ側へ多数の遺体を引き渡してきた。ガザの保健当局は、受け入れた遺体の多くが身元不明で、識別作業が難航していると述べる。専門機材の不足や遺体の損傷が、家族への引き渡しを遅らせている背景にある。
遺体の扱いは感情の重さを伴うゆえ、手続きの丁寧さが問われる。現地の医療機関は損壊や腐敗が進んだ遺体の識別に時間を割き、衣類や身体的特徴を手がかりに照合を進める。これまでにイスラエル側から戻った遺体は270体に達したとの報告もあり、保管や検査の負担は増している。相互の移送が続くほど、識別体制の脆弱さと家族の待機時間の長さが際立つ。
停戦の枠組みと捜索の現実
今回の引き渡しは停戦合意の履行過程に位置づけられる。合意は生存者の解放とともに、死亡した人質の遺体返還や、パレスチナ側への遺体移送も含んでいる。とはいえ、広範な破壊が残るガザでの捜索は遅れがちだ。瓦礫下の探索には重機が不可欠で、通行路の安全化や不発弾処理が前提となる。回収までの時間差は各当事者の不信を招きやすく、透明性の確保がいっそう重要になっている。
身元の確定は司法と医療の交差点にある作業であり、政治的緊張から距離を置くことが求められる。今日運ばれた1体も、検視と鑑定を経て家族のもとへ戻るまで静かに保全されるだろう。移送車両が去った後の検視室には、合意の文字より先に、人を人として扱う作法が残る。小さな前進の積み重ねが、やがて記録の行間ににじむはずだ。
