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千葉県いすみ市の会社敷地内で、同僚の女性が顔などを刃物で刺され死亡する事件が起きた。逮捕されたのは中国籍の社員で、殺人未遂の疑いで身柄を確保されたあと、女性は搬送先の病院で死亡が確認された。勤務先が一瞬にして凄惨な現場となったこの出来事は、職場での突発的な暴力をどう防ぐのかという重い課題を突きつけている。
突然の職場の暴力が残した衝撃
テレビ朝日系ANNやフジテレビなどの報道によると、事件が起きたのは12月5日午前9時半すぎ、千葉県いすみ市にある製造会社の敷地内だ。同じ会社に勤める立石みちよさん(58)が、中国籍の劉柯容疑者(39)に顔などを刃物で何度も刺され、その後死亡した。面談中に襲われたとみられ、事件直後には別の同僚2人が容疑者を取り押さえたという。劉容疑者は家から持ち込んだナイフで刺したことを認めていると報じられている。
業務の話し合いが行われていたはずの場が、一転して凶行の現場となった。職場は多くの人にとって生活の土台であり、第2の居場所でもある。その空間で同僚から命を奪われる事件が起きた事実は、従業員や家族、近隣の企業で働く人たちに「職場は本当に安全なのか」という不安を突きつけている。日々顔を合わせていた同僚同士の関係が一瞬で崩れたという現実は、単なる「職場トラブル」という言葉では片づけられない重さを持つ。
警察は2人の間に何らかのトラブルがあったとみて、容疑を殺人に切り替えて動機を調べる方針だと伝えられている。今回のような突然の暴力を完全に防ぐ方法はないかもしれないが、その前段階にあったかもしれない違和感や衝突の兆しを、周囲がどこまで共有し合えたのかという問いは残る。職場で起きた事件だからこそ、「誰も気づけなかったのか」というやりきれなさが強く意識される。
ハラスメント対策から見える「予防」の手がかり
国は、職場でのいじめや嫌がらせが深刻な問題になっているとして、予防策の強化を進めている。厚生労働省は12月を「職場のハラスメント撲滅月間」と定め、オンラインのシンポジウムや啓発資料を通じて、企業に相談窓口の整備や管理職研修を呼びかけている。ポータルサイト「あかるい職場応援団」では、具体的な事例や対応策が紹介され、上司や人事担当者が早い段階で問題に気づくための手引きがまとめられている。
こうした取り組みの主眼はハラスメントの防止だが、その延長線上には身体的な暴力の抑止もある。言葉の暴力やパワハラ、孤立が放置されれば、不満や怒りが蓄積し、極端な行動に至る危険が高まる。日常的に面談や評価の場で不調のサインを拾い、必要に応じて配置転換や外部カウンセリングにつなげる仕組みは、組織の「安全装置」として機能し得る。今回の事件で使われたとされる「面談」という場も、本来であれば、社員の不安や不満を吸い上げ、リスクを下げるための重要な機会だったはずだ。
特に地方の中小企業では、専任の人事担当者や産業医がいない職場も多い。限られた人員の中でも、誰がどのような悩みを抱えているのかを共有し、問題がこじれる前に相談や配置変更を検討できる体制づくりが求められる。組織としての仕組みが整っていないほど、個々の上司や同僚の「気づき」に頼りがちになるが、属人的な対応だけでは限界がある。国のガイドラインや各種支援策を、小さな職場ほど積極的に取り込み、簡易な形でも運用していくことが欠かせない。
一人で抱え込まないための相談先と文化づくり
同僚との関係に不安を覚えたり、暴力をほのめかす言動に気づいても、「大げさだと思われるのでは」と周囲に打ち明けられない人は少なくない。そうしたとき頼れる場として、千葉県には女性の暴力被害全般を受け止める「女性サポートセンター」や、最寄りの女性相談支援センターにつながる全国共通短縮ダイヤル「#8778」などの相談窓口がある。電話やSNSで相談を受け付ける窓口も整備されつつあり、こうした仕組みは被害を受けた人だけでなく、加害になりかねない不安を抱える人からの相談も想定している。
今回の事件の背景は、これからの捜査で少しずつ明らかになっていくだろう。しかし、どの職場でも似たような危うさを抱え得るという前提に立ち、早期に相談しやすい環境と外部支援への橋渡しを整えることは重要だ。地方の一企業で起きた一件として片づけず、国籍や立場を問わず誰もが安心して働けるよう、暴力を許さない文化をどう根付かせるかが問われている。
