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政府は11月28日、物価高対策と成長投資を柱とする2025年度補正予算案を閣議決定した。一般会計の歳出は18兆円超で、関連する総合経済対策の国費は約21兆円規模にのぼる。高市早苗首相の下での初の本格的な予算編成となり、「責任ある積極財政」の試金石と位置づけられる。一方で、12月17日までの臨時国会で成立を急ぐ裏側では、家計や中小企業、さらには将来世代がどのように負担と恩恵を分け合うのかという問いも浮かび上がる。
暮らしと中小企業にとっての「最大規模」
今回の補正は、高市政権が掲げる「強い経済」実現に向けた総合経済対策の財源となる。柱のひとつは、原材料や光熱費の高騰で圧迫されてきた中小企業の支援だ。生産性向上のための設備投資や、物価高のなかでも賃上げを続ける企業を後押しする補助制度が、複数の省庁をまたいで用意される。
家計向けには、ガソリン価格を抑えるための税制見直しや補助金の継続に加え、自治体に配分する交付金を通じて、公共交通の割引や子育て世帯への給付など、地域の実情に応じた対策をとる余地も広がる。だが、こうした支援は多くが期間限定で、申請手続きや周知が遅れれば、必要とする人に届かないというこれまでの課題も残る。
特に従業員数が少ない事業者では、補助金ごとに異なる募集要項や実績報告への対応が負担となりがちだ。売上の先行きが見通しづらいなかで、新しい設備や人材に投資する決断を迫られるため、支援策を「使いこなせるかどうか」で地域企業の明暗が分かれる恐れもある。目の前のコストを抑える対策と、長期の投資を促す仕組みをどう組み合わせるかが、現場にとっての鍵になる。
高市政権の「責任ある積極財政」とは
高市首相は10月の所信表明演説で「経済あっての財政」を掲げ、景気や賃金の底上げに必要な分野には大胆に財政出動する姿勢を示した。一方で、国と地方を合わせた債務残高の伸びを名目成長率の範囲に抑え、国内総生産に対する債務の比率を徐々に引き下げると説明している。今回の補正は、そのバランス感覚が実際の数字として初めて問われる場面となる。
短期的には物価高による実質所得の目減りを和らげることが最優先だが、同時に、経済安全保障やエネルギー、健康医療、国土強靱化といった「危機管理投資」も重視される。AIや半導体、サイバーセキュリティなどの戦略分野に官民の資金を呼び込む仕掛けを、補正予算や関連税制に組み込むことで、日本を「世界で最もAIを活用しやすい国」に近づける狙いもにじむ。
しかし、10月に始まった臨時国会の会期は12月17日までと限られている。政府・与党は補正の成立に加え、年末までに与党税制改正大綱と2026年度当初予算案も取りまとめる必要があり、国会審議の時間はどうしても圧縮されがちだ。巨額の支出をどの世代がどの程度負担するのか、本来なら丁寧に議論すべき論点が、スケジュール優先で置き去りにならないかが懸念される。
借金と投資、次の世代への資産づくり
日本の公的債務残高は国内総生産を上回る水準にあるものの、いま求められているのは「成長の源泉」をつくるための戦略的な投資だ。コロナ禍後最大級となる今回の補正予算は、将来の税収増を可能にし、次の世代により豊かな経済基盤を残すための重要なステップとなる。高市政権が掲げる成長による債務比率の低下には、賃金上昇や生産性向上を後押しする思い切った政策が欠かせず、国債費の動向も、成長によって吸収し得るとの見方が広がっている。
コロナ禍のただ中で組まれた補正は急場の支援が中心だったが、今回は平時に近い環境下で、未来への投資と物価高対策をどのように最適化するかが焦点となる。一つひとつの事業を丁寧に磨き上げ、高付加価値の成長領域へ的確に資金を投じることで、積極財政は「負担」ではなく「資産」へと姿を変える。採算性の高いインフラ整備や、企業の挑戦を後押しする補助制度の強化が、長期的な経済活力につながる。
家計や中小企業にとっては、必要な支援が途切れず届き続けることが生活と事業の安心につながる。今回の補正が単発の景気対策に終わるか、それとも賃上げと投資拡大の好循環を生み出す起点となるのかは、今後の予算編成や税制のデザインによって大きく左右される。巨額の投資によって誰がどのような恩恵を受け、社会全体がどのような未来を共有できるのか──その姿を見据えながら、前向きな選択を進めていくことが求められている。
