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会議室のテーブルに並ぶ資料には、相次ぐ流出事故の数字がびっしりと並ぶ。金融庁は暗号資産交換業者に対し、不正流出などへ備える責任準備金の積み立てを義務付ける方針だ。暗号資産に金融商品取引法を適用する見直しの一環で、2026年の通常国会に改正案を出す方向とされる。狙いは、被害が起きたときに顧客の損失を素早く埋められる仕組みを整えることにある。
責任準備金で何が変わるのか
責任準備金は、本来は証券会社など第一種金融商品取引業者が、事故時の顧客への賠償に備えて積み立てる資金だ。だが現行ルールは、不正流出のような事案を十分に想定しておらず、原則として行政の個別承認がなければ資金を取り崩せない。金融庁は暗号資産交換業者に同様の枠組みを適用しつつ、ハッキングなどで顧客資産が失われた場合には、迅速に補償へ使えるよう制度を手直しすることを検討している。
新たなルールでは、これまで義務化されてこなかったコールドウォレットの管理分についても、一定額の責任準備金を確保する方向と伝えられる。水準を決めるうえでは、国内大手証券会社が積む準備金の規模や、過去の流出事件で失われた金額が手がかりとなる見込みだ。また、すべてを現金で抱えるのではなく、サイバー保険などへの加入で一部を代替できる案も示されており、事業者の負担をどう抑えるかが議論の焦点になっている。
あわせて、交換業者が破綻した場合の顧客資産の返還ルールも見直される。現在も顧客資産と自社資産の分別管理は義務付けられているが、経営陣が不在になると払戻しの実務が滞るおそれがある。そこで弁護士などの管理人が裁判所の関与のもとで資産を返還できる仕組みを整え、証券分野に近い保護水準を目指すという。暗号資産を金融商品取引法という証券やデリバティブの基本法の中に正式に位置付ける流れの一場面でもある。
相次ぐ流出が押し上げた危機感
今回の議論の背後には、生々しい被害の記憶がある。2024年5月31日には、国内交換業者DMMビットコインのウォレットから4502.9BTC、当時のレートで約482億円相当が不正流出した。同社は約550億円の資金調達計画を打ち出し、流出分を買い戻して全額補償する方針を公表したが、同規模の対応が難しい中小業者も多い。巨額の被害が生じても確実に顧客を守れる「仕組み」として、責任準備金を制度化する必要性が強まっている。
2025年2月には、海外大手取引所Bybitが約14億6000万ドル、約2170億円相当の暗号資産を失う大規模ハッキングに見舞われた。イーサリアムのマルチシグコールドウォレットが、署名者に内容を誤認させるブラインドサイニング攻撃で突破されたとされ、北朝鮮系ハッカー集団の関与も指摘されている。コールドウォレットであっても絶対ではないという現実は、日本の規制当局にとっても重く、コールド管理分まで含めた備えを求める方向性を後押ししたとみられる。
かつてはMt.GoxやCoincheckの事件が、日本の暗号資産規制を大きく動かした。2018年以降、交換業登録制度やコールドウォレットによる管理義務が整備され、一定の安全網は築かれてきたが、近年はより巧妙な攻撃により、その網の目が再び試されている。金融庁は金融審議会の作業部会で論点整理を進め、今度は流出後の補償と破綻時の返還に焦点を当てた「第2段階」の投資家保護を描こうとしている。
度重なる損失の上に積み上げられる新たなルールは、投機的な熱気とは別の場所で、暗号資産を金融インフラとして扱うための土台を少しずつ形づくりつつある。
