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マイクの前に立った東京農工大学の高木康博教授は、手のひらに載る試作レンズを掲げ、「次の情報端末はここに入る」と静かに語った。2025年10月、日本初のスマートコンタクトレンズに関する共同事業体が立ち上がり、日本の研究機関と企業が一体となって新しい「身に着けるコンピューター」を形にしようとしている。
日本初コンソーシアム、2026年本格稼働へ
新しく発足したコンソーシアムは、高木教授のグループを中心に大学や企業など11者が参加し、2026年4月から本格活動を始める予定だ。目的は3つあり、技術開発の加速、製品としての普及、そして国際議論を見据えた業界標準づくりである。日本では約3人に1人がコンタクトレンズを使うとされ、視力補正にとどまらない新しい機能を載せる余地は大きい。
スマートコンタクトレンズは、拡張現実(AR)で地図や翻訳結果を表示したり、眼圧や涙の成分を測って健康状態を見守ったりと、多様な利用が想定されている。東京農工大学のプロジェクトは、情報通信研究機構のBeyond 5G関連事業にも採択されており、次世代ネットワークと連携した新しいインターフェースとしての役割も期待される。医療や福祉分野での応用を視野に入れ、企業からは電池や電子部品のメーカーも参加している。
ホログラム方式で「自然に見える」映像を
これまで海外では、液晶やマイクロLEDをレンズに埋め込む研究が先行してきたが、目のすぐ近くに像が出るためピントを合わせにくいという課題があった。高木教授らは、光の位相を制御して立体像をつくるホログラム技術を応用し、数十センチ先に仮想スクリーンを浮かび上がらせる方式を提案している。レンズの中には光を操る空間光変調器(SLM)と、それを照らすレーザー型バックライトを組み込み、SLMは約0.1mm、バックライトは0.08mm未満まで薄くすることに成功している。
中心部の厚み0.25mmという目標は、通常のコンタクトレンズに近い装用感を保つための条件だ。ホログラムは透明なまま情報を書き込めるため、視界を妨げにくく、高解像度の画像も表示できる。極小の光学部品や薄膜、そして安全性の高い全固体電池を組み合わせる今回の構成は、日本が得意としてきた精密加工や材料技術の集大成とも言える。トヨタ自動車が電池用途の開拓を目的に名を連ねるのも、その延長線上にある動きだろう。
巨額投資進む海外勢、日本発の標準を目指す
一方で、世界に目を向けると競争はすでに激しい。アラブ首長国連邦ドバイ発のスタートアップXPANCEOは、2025年7月に2億5000万ドルの資金調達を公表し、企業価値13億5000万ドルのユニコーン企業となった。夜間視力の強化や光学ズーム、涙を使った健康モニタリングなど、多機能を1枚のレンズに統合する構想を掲げており、米Mojo Visionなどとともに先行プレーヤーとして走っている。
国際電気標準会議(IEC)では、アイウェア・ディスプレイの作業部会でコンタクトレンズ型ディスプレーの標準化が始まり、測定方法や安全基準を巡る議論が進みつつある。日本のコンソーシアムは、こうした場にも参加し、日本発の技術を前提とした仕様づくりを目指す構想だ。電子部品メーカーや医師、工学と医学の橋渡しをする研究者らが集まり始めた小さな輪が、やがて世界標準を形づくる一滴になるのか、その行方を見守る視線も静かに増えている。
