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作業台に置かれた模型の船体を囲み、技術者が新しい数値を指で追う。中国の江南造船が開発中の原子力コンテナ船について、詳細仕様が初めて公になった。積載は約1.4万TEU、動力はトリウム溶融塩原子炉(TMSR=塩を冷却材に使う炉)。商船の設計に原子力の新機軸を持ち込む、静かな一歩である。
公開された仕様と設計の狙い
報道は2025年11月6日に伝えられた。江南造船の計画は、標準コンテナ約1.4万個の輸送力を持つ大型船に、熱出力200MW級のTMSRを搭載するという内容だ。従来の加圧水型と違い、水ではなく塩を冷却材に用いるため低圧設計が可能になり、原子炉の容積と騒音の低減が図れる。非常用のディーゼル発電機も備え、運用上の冗長性を確保する構えである。
記事では、この出力水準が米海軍の最新原潜で用いられる原子炉に匹敵すると位置づけられた。生成した熱は発電システムで電力に変換され、効率は従来の蒸気方式(約33%)より高い45〜50%になるという。高効率化の鍵として、蒸気に頼らない発電サイクル(ブレイトンサイクル=熱を圧縮気体で回す方式)の適用が示唆される。
TMSRは溶融塩が燃料や放射性物質を抱き込みやすい特性を持つとされ、圧力容器の負担を抑えつつ、受動的な安全機構を取り込みやすいことが利点とされる。塩冷却のため大量の冷却水系が不要で、艤装スペースの自由度も広がる。こうした設計選択は、長期航海の信頼性と静粛性を重視した“海で使える原子炉”を目指したものだと読み取れる。
経済性と運航の壁
一方で、原子力商船の経済性は厳しい。従来の大型コンテナ船は化石燃料で1か月超の連続航行が可能で、補給網も確立している。原子力は初期建造費が高く、保険や放射線管理の費用も上乗せとなる。専門乗組員の確保、寄港先の受け入れ体制、廃止措置や廃棄物の長期管理まで含めると、総コストはなお重い。
ただ、燃料価格の変動と補給制約から解放される利点は大きい。推進が電化されれば、運航側は速度や電力配分を柔軟に最適化でき、定時性の向上や冷凍電力の安定供給にも寄与する。整備周期が伸びればドック入りの回数も抑えられる可能性がある。短期の採算は難しくても、長期運航の総費用や脱炭素目標との整合で評価が変わる余地は残る。
市場で鍵を握るのは、金融・保険と規制の歩調だ。リスクアセスメントが標準化され、保険商品の設計が前に進めば、資本コストは下がる。港湾側の受け入れ要件が明確化すれば配船計画は立てやすい。技術だけでなく、産業の“制度インフラ”が同時に動くかどうかが、実装の速度を左右する。
国際ルールは動き始めている
2025年6月27日、IMOの海上安全委員会(MSC第110会合)が閉幕し、1981年採択の原子力商船安全コードの改訂に向け、担当小委員会へのタスク付与が確認された。改訂は技術中立かつ目標ベースの枠組みを志向し、IAEAの基準も参照する。あわせてSOLAS条約の関連章も見直し対象に挙げられ、制度の土台からの再設計が始まる段取りだ。
この流れは、設計審査や運航、乗員教育、寄港受け入れ、責任・補償の各レイヤーを国際的に整える契機になる。コードの更新が具体化すれば、建造から運用、廃止措置までの安全要件が見通しやすくなり、資金調達や保険の前提条件も揃う。中国の計画が示した「実装像」は、まさにこうしたルール形成と歩調を合わせる必要がある。
供給網の再編と周辺のうねり
2025年3月11日には、米テラパワーと韓国のHD Hyundaiが、ナトリウム冷却炉「Natrium」の世界的な製造・供給網構築で戦略協業を発表した。直接の海上推進向けではないが、造船系の厚板加工や大型圧力容器の品質管理といった“つくる力”が原子力サプライチェーンに組み込まれる意義は大きい。量産の知見は、海洋機器にも波及しやすい。
SMR(小型モジュール炉)への関心が高まるなか、中国の案件は「船という用途で、原子力をどう統合設計するか」を具体的に描き出した点に意味がある。民間の原子力船は長らく少数に限られてきたが、技術・規制・金融の三要素が同時に動けば、局面は変わりうる。模型の次に、実船の建造計画と航路設計が問われる段階が近づいている。