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国際協力機構（JICA）が「アフリカ・ホームタウン」構想の撤回を発表した直後、岩屋毅外相が日本時間の2025年9月26日、訪問先のニューヨークで陳謝した。誤解が拡散し自治体に過大な負担が生じたと認めたうえで、国際交流の意義は揺るがないとして説明の徹底を誓った。国内の受け止めが揺れるなか、政府とJICAが信頼回復へどう舵を切るかが問われる局面だ。
何が起きたのか
JICAは2025年9月25日、アフリカ各国と日本の自治体の交流を後押しする「アフリカ・ホームタウン」構想の撤回を発表した。構想は、日本の複数の市を相手国の「ホームタウン」として認定し、研修やイベントを通じた関係強化を狙うものだった。だが、名称や認定の枠組み自体が国内での誤解を招いたとして、JICAの田中明彦理事長が会見で陳謝し、白紙に戻す判断を明らかにした。認定状が手渡された自治体には抗議が相次ぎ、庁舎対応の負担が実務を圧迫したとの声が出ていた。外形だけを先行させず、関係者の理解を積み上げるプロセスの設計がいかに重要かを浮き彫りにした形だ。
撤回表明から間を置かず、国連総会で各国要人が集まるニューヨークで岩屋外相が報道陣に応じ、誤解と混乱を招いた結果として自治体に過大な負担を生じさせたと頭を下げた。国としての反省を示しつつも、アフリカを含む諸外国との交流促進は極めて重要だと強調し、事業の意義をわかりやすく伝える努力を続けると語った。現場の困りごとに目配りしながら、国益に資する交流をどう再設計するか。政府とJICAの両輪が、説明と実行のバランスを取り直す段階に入った。
誤解はなぜ広がったのか
火種の中心にあったのは「移民受け入れが進むのではないか」という不安感だった。JICAは当初から、交流はあくまで期限付きの研修や相互訪問を想定し、終了後は帰国を前提としていたと説明している。それでも、ホームタウンという耳なじみのよい言葉と、JICAが自治体を“認定”するという形式が相まって、「恒常的な人の移動につながる」との憶測が膨らみ、SNS上で断片的な情報が独り歩きした。さらに相手国側の一部で「特別なビザ」が用意されるかのような誤った発表が重なり、国内の懸念を増幅させる結果となった。
外務省は事実関係を公表し、移民の受け入れ促進や特別査証の発給は想定していないと明確に否定した。構想が狙ったのは、市と国の対で交流の接点を増やすことにあり、具体的には愛媛県今治市とモザンビーク、千葉県木更津市とナイジェリア、新潟県三条市とガーナ、山形県長井市とタンザニアの組み合わせが示されていた。事業の設計段階で、制度の射程と限界、関係者の役割分担をより丁寧に共有できていれば、受け止めのズレは最小化できた可能性がある。名称や認定の見せ方を含め、情報の出し方そのものが政策インフラであることを改めて示した。
交流の意義と次の一手
岩屋外相は、国際交流の推進は日本が国際社会で信頼を得て生きていくための基盤だと語った。経済や気候変動、保健といった課題は国境を越えて連動しており、相手国の若手人材や自治体との往還は、双方の現場に役立つ知見と関係資本を蓄える。重要なのは、国内の理解を置き去りにしない進め方だ。関係自治体と相手国政府、市民それぞれにとってのメリットとリスクを見える化し、期限や人数、費用負担の考え方を初期段階から共有する。言葉が一人歩きしやすい時代だからこそ、制度の目的と非目的を同時に説明する“セットの広報”が欠かせない。
JICAは理事長会見で、誤解と混乱を招いた経緯を重く受け止める姿勢を示した。今後の再設計では、名称の再考や認定という形式に代わる緩やかな枠組みの検討が現実的だろう。例えば、既存の自治体間交流や技術協力に「アフリカ連携」のタグを付け、プログラムの束として段階的に公開する方法がある。相手国政府への説明は、各国の制度や世論の特性に合わせて発信の窓口を複線化する。国内では、交流の成果を数字だけでなく具体のエピソードで伝え、地域の納得を積み上げる。撤回は痛手だが、設計をやり直す余白でもある。政府とJICAが歩調をそろえ、透明な対話を重ねることが次の一歩につながるはずだ。
