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1年の世相を漢字1字で表す「今年の漢字」が12日、「熊」と発表された。公益財団法人・日本漢字能力検定協会が全国からの応募を集計し、京都市東山区の清水寺で森清範貫主が大書して示したものだ。各地で相次いだクマ被害やパンダ返還のニュースが重なった今年、その一文字は、自然との距離が急速に縮まった日本社会の不安をどう映し出しているのか。
身近になった「熊」が映す暮らしの不安
山あいだけでなく、市街地や学校の周辺でもクマの目撃が相次ぎ、人身被害と死亡者数は統計開始以降で最多水準に達したと報じられている。政府は「クマ被害対策パッケージ」をまとめ、自治体と連携した駆除や見回り、住民への注意喚起を急いだが、通学路の変更や地域イベントの中止など、暮らしの細部にまで影響が広がった。
こうした中で行われた今年の漢字の募集には18万9122票が寄せられ、「熊」は2万3346票で1位、「米」はわずか180票差の2位となった。票の僅差は、人々の心に残ったのが物価高や食卓の不安と同時に、いつ自分の身近にも現れるか分からない野生動物への恐れだったことを物語る。生活のリスクが身に迫った年だったからこそ、多くの人が「熊」に自分ごとの実感を託したともいえそうだ。
清水寺の揮毫が問いかける、これからの1年
「今年の漢字」は1995年から続く企画で、日本漢字能力検定協会が全国から応募を募り、最多得票の1字を毎年12月12日の「漢字の日」に清水寺で発表してきた。高さ約1.5メートルの和紙に森貫主が特大の筆で揮毫し、本堂に奉納される光景は冬の風物詩だ。今年は31回目で、動物の漢字が選ばれるのは2003年の「虎」以来2度目とされ、異例性の高さも際立つ。
災害や政治不信を象徴する漢字が続いた近年と比べると、「熊」という文字は、山里と都市、野生と人間社会の境界が揺らいだ1年を象徴している。2位の「米」には物価や食料安全保障への懸念も集まった。清水の舞台で力強く書かれた一文字は、被害拡大を防ぐ対策を急ぐと同時に、自然と共に暮らす道をどう選び取るのかという問いを、来年以降の私たちに静かに投げかけている。
