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秋のホームに冷たい風が抜け、列車がきしむ音が響く。ニューヨーク地下鉄の更新計画が一段進む。川崎重工業の子会社である川崎車両の米国現地法人が、NYC Transitから新型車両R268を378両受注する。契約額は約15億ドル（約2200億円）。2028年から2030年にかけて納入し、老朽R68系の置き換えを加速させる動きだ。
ニューヨーク地下鉄にR268、378両の大型発注
2025年10月31日 22:30、州政府の発表に合わせてMTA（NYCT）が新型地下鉄車両R268の378両購入を正式に承認した。契約額は15.07億ドルで、財源は2025〜2029年の資本計画に計上される。導入先はBディビジョン全域を想定し、信頼性や運行性能、乗客体験の底上げを狙う姿勢を鮮明にした。大規模な車両更新と信号近代化を同時に進める青写真が浮かぶ。
初号車の搬入は2028年秋、全車は2030年までにそろう見込みである。対象は1980年代導入のR68・R68Aの更新で、R268はCBTCに対応した制御系を備える。各車に監視カメラを標準装備し、座席配置の見直しや明るい車内照明、視認性の高い案内表示も盛り込む計画だ。故障が運行の隘路となってきた老朽車の置き換えにより、ダイヤの安定化とサービス改善が広がっていく。
R211の系譜を継ぐ設計、開発負荷を抑える狙い
R268は既存のR211と同等の基本仕様を踏まえて設計される計画だ。量産実績のある車体・機器アーキテクチャや部材調達網を活用し、設計検証や適合試験の蓄積を生かすことで、立ち上げの不確実性を抑える。新形式でありながらも、過度な仕様の跳躍を避けることで、コストとスケジュールの見通しを確かなものにする狙いがあるとみられる。
製造は米国内で進む。川崎車両の米現地法人Kawasaki Rail Car, Inc.が契約主体となり、ニューヨーク州ヨンカース工場など既存拠点を軸に据える構えである。熟練人材の継続雇用や、完成検査・試運転の効率化といった運用面の利得も見込まれる。地場での生産は納期面のリスク低減に寄与し、稼働を切らさずに量産フェーズへ移る布陣と映る。
北米で広がる川崎の存在感、NYCTシェアは5割超へ
川崎は1980年代の初受注以降、R142A、R160、R211と大型案件を積み重ね、NYCT向けの実績を拡大してきた。米ネブラスカ州リンカーンとNY州ヨンカースの二拠点体制で、構体製作から最終組立まで一貫性を高め、調達や品質の制御力を磨いている。北米市場での鉄道事業が同社の主力の一角となり、更新需要の波をとらえながら競争力を確かめる局面が続いている。
2025年秋には米国工場の累計製造3,500両到達が発表され、NYCTにおける同社車両のシェアは今後5割を超える見込みと示された。今回のR268受注はその流れを後押しし、R211で築いた供給体制を土台に更新投資の加速へ寄与するだろう。ホームに滑り込む新車の案内表示は鮮やかだが、足元の轟音は同じだ。静かな改良の積み重ねが、日々の移動の確かさへと滲んでいく。
