李在明氏、3500億ドル投資巡り米財長官とNYで協議

2025年9月25日、ニューヨークの韓国代表部で韓国の李在明大統領が米国のベッセント財務長官と向き合った。行き詰まりが続く韓米の関税交渉と、韓国が米国に提示した3500億ドル規模の投資パッケージを巡る「次の一手」を探るためだ。安全保障の足取りはそろう一方で、通商の歯車は噛み合っていない。大統領府は交渉の重要局面入りを示唆し、為替協力も視野に入れながら道筋を描こうとしている。

交渉の現場で何が語られたのか

会場は国連総会の喧噪から少し離れた韓国代表部だった。落ち着いた空気のなかで、李大統領は「商業的合理性」に基づく解を求める姿勢を明確にした。安全保障分野では協力が着実に進んでいるが、経済・通商でも同じ水準の生産的な協議が要るというメッセージだ。投資パッケージの目的は関税の引き下げと産業協力の強化にある。ベッセント長官は韓米同盟の強固さを繰り返し、短期的な困難は乗り越えられるとの見立てを示した。さらに米国の産業戦略の文脈で韓国が「造船などの戦略分野で重要な相手」であると評価し、李大統領の説明を丁寧に聴いたうえで省内での検討を約した。交渉の温度は一見落ち着いているが、言葉の端々には、合意へ向けた条件のすり合わせがなお途上である現実がにじんでいた。

すれ違う「3500億ドル」の中身

合意の輪郭自体は夏に描かれた。焦点はその資金をどう編成し、どのタイミングで米側に流し込むかにある。韓国側は当初、融資や保証を組み合わせて段階的に投じる設計を想定していた。一部報道によれば、米側はより直接的な投資を重視し、資金の性質やスピードに踏み込んだ要求を伝えているという。投資はただの数字ではない。国内の資本市場と外貨流動性、産業の競争力という複数の歯車が同時に回らなければ、期待した雇用や技術波及が生まれない。李大統領が「商業的合理性」を口にした背景には、投資の分野配分や民間資金の呼び水として機能する設計でなければ、双方にとって持続可能な合意にならないという読みがある。米国にしても半導体から船舶、エネルギー移行まで戦略産業の底上げを急ぐ局面だ。投資の形をどう整えれば、関税引き下げと相互の産業強靭化が同時に達成できるのか。協議の核心はそこに集約されつつある。

為替の安全網と日本のケースの「違い」

交渉の空気を左右しているのが外貨流動性への警戒感だ。市場ではウォンが対ドルで1400台に弱含む場面があり、大型投資の原資手当てと資金流出への目配りは不可欠になっている。韓国側が米国との通貨スワップを同時並行で持ち出すのは、そのためだ。為替の安全網があれば、投資執行のスケジュールや為替ヘッジの設計に余裕が生まれる。比較対象として語られるのが日本のケースである。米国と先行して合意した日本は、より大型の投資と関税調整をひとつのパッケージとしてまとめたが、韓国は経済規模や外為市場の厚み、産業インフラの構造が異なる。李大統領が「日本とは条件が違う」と強調したのは、金額の競走ではなく、市場の体力に見合った最適解を探るべきだという主張にほかならない。資金の性格、執行テンポ、為替の安全網。この三点がかみ合ってはじめて、内外にしこりを残さない合意へと歩みを進められる。

次の山場とチェックポイント

これからの焦点は二つある。第一に投資パッケージの構成比だ。どこまで直接投資を積み上げ、どこから官民の保証や融資を組み込むのか。第二に関税の水準と発効のタイミングである。現行関税が高止まりする場合、輸出産業の負担は直ちに利益率に跳ね返る。交渉の停滞が長引けば、想定していた15%への引き下げが宙に浮き、25%の足かせが残るリスクもある。為替の安全網をどう確保し、投資の入口から出口までのガバナンスを誰が担うのか。国内では国会と市場の理解が問われ、米側では通商当局と財務当局の足並みが試される。ニューヨークで交わされたやり取りは、両国が同盟の「経済面」を具体化できるかどうかの試金石だ。短距離走のスピードではなく、長距離走の配分で臨めるか。次の一報が、交渉の行方を大きく占う。