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ホワイトハウスの会見場で笑いが起きたのは、記者の質問に大統領が横から口を挟んだ瞬間だった。ニューヨーク次期市長ゾーラン・マムダニ氏は、その場では微笑みを浮かべつつ、2日後の2025年11月23日、テレビ番組で改めて「トランプ氏をファシストと見ている」という立場を崩していないと語った。和やかな初会談と厳しい評価、その両方を抱えたまま、新市長の船出が始まろうとしている。
笑い声の裏側に残った「ファシスト」という言葉
2025年11月21日、ワシントンのホワイトハウスでマムダニ次期市長とドナルド・トランプ大統領が初めて向き合った。選挙中は国外退去や連邦資金削減、州兵派遣までちらつかせた大統領だったが、この日は一転して勝利を称え、「強くてとても安全なニューヨークを一緒に実現したい」と持ち上げたとされる。記者から「今もトランプ氏をファシストだと思うか」と問われると、大統領が「はいと言えばいい、説明するより簡単だ」と茶化し、会場には笑いが広がった。
しかしその2日後、マムダニ氏はNBCの番組「Meet the Press」に出演し、「過去に述べた評価は今も変わらない」と明言した。トランプ氏を「ファシスト」や民主主義への脅威とみなす考えは維持しつつ、それでも市民の暮らしのためには協力せざるを得ないと語る。自らを「民主社会主義者」と呼ぶ同氏は、理念の違いを隠さないことこそが、今の政治に必要だとも強調した。対立と実務協力を同時に抱える、この複雑な距離感が両者の関係の出発点になっている。
生活費危機に挑む新市長と、連邦政府との微妙な同盟
マムダニ氏が選挙で訴えた中心テーマは、「この街に暮らし続けることができるか」という切実な問いだった。家賃や育児、食料品、光熱費の高騰で、多くの市民が郊外への転出を考えているという。子ども1人あたりの年間保育費が約2万2500ドルに達するとの試算もある。次期市長は家賃抑制策やバスの無料化、保育の無償・低額化を掲げ、富裕層や企業への増税で約90億ドルを捻出する構想だ。ウガンダ生まれでイスラム教徒の彼は、市として初のマイノリティ出身市長として、格差是正を前面に押し出している。
一方で、治安と安全をどう確保するかは、連邦政府との関係にも直結する。トランプ氏はかつてニューヨーク市を「危険な都市」となじり、強硬策を示唆してきたが、会談後には方針を和らげ、マムダニ氏を支援すると明言したと報じられる。次期市長はニューヨーク市警のジェシカ・ティッシュ本部長の続投を決め、犯罪抑止と腐敗根絶の実績を重視する姿勢を示した。理念は正反対の2人だが、生活費と安全という共通の土台で、どこまで実務的な同盟を築けるのか。その成否が、市民の日常の風景を静かに変えていきそうだ。
ホワイトハウスの眩しい照明の下で交わされた笑みが、一瞬の演出で終わるのか、それとも高すぎる生活費に揺らぐ街を支える手掛かりになるのかは、これからの交渉と予算案の中で少しずつ形を帯びていくだろう。
