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判決を終えた法廷から、人身売買の被害者支援に携わる関係者たちが静かに歩き出した。その日、マニラ首都圏パシグ市の裁判所は、北部タルラック州バンバン市の前市長アリス・グオ被告に、人身取引の罪で終身刑を言い渡した。中国系オンラインカジノを装った巨大な詐欺拠点に人々を囲い込み、詐欺に加担させていたと認定された事件である。裁判所は罰金として200万ペソの支払いも命じ、この事件に関わったフィリピン人と中国人の共犯7人にも同様の刑罰を科したという。
詐欺拠点とされた「オンラインカジノ」の実像
事件の舞台となったのは、ルソン島バンバン市に広がる豪華な施設群だった。オンラインゲーム会社を名乗りながら、実際には恋愛詐欺や違法賭博を含む詐欺を行う拠点だったとされる。2024年3月、警察が急襲した際には、フィリピン人だけでなく中国や東南アジア各国などから来た人々を含む約700人が保護された。多くがパスポートを取り上げられ、暴力や脅しを受けながら、世界中の見知らぬ相手に向けてメッセージを送り続けていたと証言している。
報道によれば、この複合施設は、グオ被告が関与する企業名義の土地の一部に建てられていたという。現職市長だった被告の影響力のもとで、オフィス棟や宿舎、プール付きの高級ヴィラまで備えた拠点が整えられ、そこで多数の外国人労働者が監禁状態で働かされていたとされる。施設の近くにはフィリピン空軍基地もあり、一部の安全保障関係者はスパイ活動への利用を疑ったが、裁判で焦点となったのはあくまで人身取引と詐欺ビジネスの実態だった。
今回の有罪は、フィリピンの人身取引防止法における「qualified trafficking(加重人身取引)」と、その中の「organizing trafficking(組織化)」という条文を適用した点でも注目されている。人身取引を組織し、他者に行わせた責任を問う規定での有罪は初のケースとされ、裁判所はグオ被告らが拠点全体の運営に関わったと判断した。判決では、終身刑に加え、被害者への損害賠償の支払いと、詐欺拠点となった土地と建物を国に没収することも命じている。強いメッセージを込めた量刑だと言える。
国籍偽装の行き着いた先と、広がる波紋
法廷で問われたのは人身取引だけではない。グオ被告は2022年の市長選に出馬する際、自らをフィリピン生まれの市民だと主張していた。しかし2025年6月、マニラ地方裁判所は、指紋記録などをもとに、被告が中国人の両親を持つ郭華萍という人物と同一だと認定した。判決文は、被告が9歳だった1999年に中国福建省から中国旅券で両親とともに入国したと指摘し、生まれながらのフィリピン国民のみが地方首長になれると定める憲法上の要件を満たさないとして、市長当選を無効とした。
市長職の資格が揺らぐ前から、政治的な疑念は強まっていた。被告はバンバン市長在任中に行われた上院調査への出席を繰り返し拒み、2024年には公務上の非行で罷免されている。その後姿を消し、インドネシアで拘束されてフィリピンへ送還された経緯も明らかになった。今回の人身取引裁判では、長期にわたる逃亡と捜査への非協力が、組織的関与への疑念を一層深める材料となった。今後も資金洗浄や汚職など、別の刑事事件が続く見通しだと伝えられている。
グオ被告のケースは、フィリピンのオンライン賭博産業そのものを揺さぶった。中国人経営者が多いPhilippine Offshore Gaming Operators(POGO、フィリピン国外向けオンライン賭博事業)の一部が、人身取引や詐欺の温床になっていたと批判されてきたためだ。国連の報告によれば、東南アジアの類似拠点によるオンライン詐欺で、2023年に被害者が失った金額は少なくとも370億ドルに達するとされる。マルコス大統領は2024年にPOGOの全面禁止方針を打ち出し、多くの外国人労働者が送還された。今回の終身刑判決は、その流れの中で、国家がどこまで犯罪組織に切り込めるかを示す一つの試金石となった。
巨大な複合施設から救出された人々は、それぞれの国で生活を立て直そうとしている一方で、空になった建物には今も警察のテープが残るという。静まり返った敷地は、国籍を偽り権力を得た一人の政治家と、その陰で搾取された無数の人々の時間が、確かに交差していた場所であることだけを物語っている。
