Micronが広島で次世代HBM新棟　1.5兆円投資に政府が5000億円支援へ

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2025.12.01

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米メモリー大手Micron Technologyが、広島県東広島市の工場敷地内にAI向け次世代メモリー専用の新棟を建設すると報じられた。2026年5月に工事を始め、2028年ごろから高帯域メモリーHBMの新世代品を出荷する計画で、総投資額は約1兆5000億円、日本政府は最大5000億円を支援するとされる。クリーンルームの拡張が進めば、AIサーバーを求める企業の不安は和らぐ一方で、税金で支える巨額投資のリスクも問われている。

国内ユーザーにとっての安心感と「待ち時間」

生成AIの学習や推論には、演算能力だけでなく膨大なデータを一気に読み書きできるHBMが欠かせない。世界的な需要急増で、国内のクラウド事業者やスタートアップも海外勢との争奪戦を強いられていると報じられてきた。広島の新棟が2026年に着工し、2028年ごろから本格出荷を始めれば、日本発のAIサービスが必要なメモリーを国内で確保しやすくなるとの期待がにわかに広がる。

一方で、工場周辺の部材メーカーやエンジニアには、新棟の稼働が地域経済を押し上げるチャンスとして映る。最先端DRAMの製造技術が集積することで、人材育成や下請け企業の高度化も見込めるからだ。だがAI関連投資は景気や技術トレンドの変化に左右されやすく、数年後に需要が鈍れば、増設したクリーンルームをどう生かすのかという難題が現場にのしかかる。安定供給と過剰投資、その境目を見極めることが、利用者にも地域にも求められている。

足元では、大企業だけでなく自治体の業務効率化や中小企業の需要予測など、より身近な分野でも生成AIの活用が進みつつある。これらのサービスも最終的にはデータセンターの計算資源に依存しており、その裏側で動くメモリーの供給が安定するかどうかは、日本のデジタル化の速度にも直結していく。広島の新棟は、こうした「見えないインフラ」を国内で支えられるかどうかを占う試金石になる。

1.5兆円投資と最大5000億円補助、その狙い

今回の計画で目を引くのは、総額約1兆5000億円という規模と、そのうち最大5000億円を国が補助するとされる点だ。日本政府は老朽化した半導体産業を立て直すため、MicronやTSMCなど海外メーカーの国内工場に多額の助成を行い、AI用半導体を自国で確保できる体制づくりを急いでいる。電力網や人材などインフラ面でも負担を負うことで、日本を「AIメモリーの拠点」として世界のサプライチェーンに組み込もうとする戦略だ。

Micron側にとっても、日本の補助金は景気変動の激しいメモリー投資のリスクを分担してくれる存在だ。HBM市場では韓国のSK hynixが先行し、NVIDIA向け供給などで優位に立つとされる中、広島の新棟は追い上げの切り札となる。もっとも、過去にはメモリー価格の急落で世界的な過剰設備が問題になったこともあり、今回の投資が将来の重荷とならないよう、どこまで公的資金で支えるべきかという議論は避けられない。

一方で、補助金の条件や成果指標がどこまで開示されるかも重要だ。地元企業との連携や国内サプライヤーの採用、人材育成への投資など、社会にもたらす便益を定量的に示せなければ、「海外企業に税金を差し出しただけだ」との批判が強まるおそれがある。巨額支援の妥当性は、今後の運用と説明責任に委ねられている。

台湾依存からの分散、日本の半導体地図を変えるか

Micronの広島増設には、単なる企業投資を超えた地政学的な意味合いもある。先端メモリー生産はこれまで台湾に偏ってきたが、米中対立や台湾海峡のリスクを背景に、日米欧はサプライチェーンの「友好国分散」を進めている。日本でもTSMCの熊本工場などロジック半導体の新拠点が相次ぐなか、AI向けメモリーまで国内で賄える体制が整えば、有事や輸出規制時の調達不安を和らげる効果が期待される。

とはいえ、海外企業への巨額支援が長期的に日本の産業基盤をどこまで強くするのかはまだ見通せない。AIブームが続けば、広島は次世代メモリーの世界的な供給基地となりうるが、技術の転換や需要の一服が起きれば、国内に残るのは減価償却途中の設備と雇用調整の負担かもしれない。マイクロンの新棟計画は、AI時代の成長機会を取り込む挑戦であると同時に、誰がどのリスクをどこまで負うのかという、日本社会全体の選択を突きつけている。

かつて日本勢はDRAMで世界シェアの大半を握りながら、価格競争と投資負担の重さから撤退を余儀なくされた歴史がある。今回のように海外メーカーを呼び込むモデルは、その延長線上にあるとも言える。広島の新棟が、かつてのような「栄光と疲弊」の繰り返しになるのか、それとも持続的な共創の場になるのかは、今後10年超にわたる政策と企業行動に左右されるだろう。