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2025年9月26日、米マイクロソフトがイスラエル国防省の一部部局に対し、クラウドとAIの「特定のサブスクリプションとサービス」を停止した。社内調査で、ガザやヨルダン川西岸の民間人に対する大規模監視に自社基盤が使われていた疑いを裏づける証拠が見つかったためだ。決定は、ビッグテックの対政府契約の線引きを改めて問うものでもある。
止めたのは何か、残したのは何か
2025年9月25日、同社のブラッド・スミス社長が社員向けメモで方針を明らかにした。対象はイスラエル国防省の特定部局で、クラウドストレージやAI技術を含む「特定のサービス」を無効化したという。利用規約の順守を確保する措置であり、同社の決定はイスラエル側にも正式に通知された。サイバーセキュリティ支援については継続し、中東地域の防御体制を守る業務に影響はないとした。
スミス氏は、民間人への大規模監視に自社技術を用いることは認めないという原則を改めて強調した。標準規約でもその利用を禁じており、今回の精査でも「顧客コンテンツ」には一切アクセスしていないと説明した。検証は財務記録や社内文書、メールやメッセージのログなど、自社側の情報を対象に進められた。
同社は、オランダのAzureでストレージ消費が確認された事実や、AIサービスの利用実態など、調査報道の一部を裏づける痕跡を得たと述べた。これを受け、特定のサブスクリプションの停止と無効化に踏み切り、規約違反の防止を優先した判断だと強調している。調査自体は継続中で、結論や教訓は適切な時期に公表するとしている。
疑惑の核心—何が監視されたのか
2025年8月、英紙とイスラエル・パレスチナの独立系メディアによる共同調査が公開された。対象はイスラエル軍の情報機関「8200部隊」で、膨大な通話データがMicrosoftのAzureに保管され、民間人の通話内容が収集・再生・分析されていたと報じられた。データの保管拠点として、オランダのデータセンターが用いられていたとされる。
調査によれば、保存量は最大8,000テラバイト規模に達し、部隊内では「1時間に100万通話」という合言葉が使われたという。大容量の保存とAI解析が組み合わさることで、広範な通信の把握が可能になり、ガザや西岸を含む作戦計画の立案にも寄与したと伝えられている。
マイクロソフトは疑義を受け、外部法律事務所の支援も得ながら関係の見直しを実施した。一次審査の段階で、クラウドの利用状況やAIサービスの使用実績など、報道の要素を支える材料を確認したと説明する。一方で、顧客データに踏み込まずに判断したことも明記した。
さらに、当該部局が保有するデータを他社のクラウドに移す動きがあるとの報道もある。監視インフラが国境を越えて構築される時代に、企業の規約と各国の主権、そして個々の人権のあいだで、難しい綱引きが続いていることを映し出す。
広がる波紋とこれから
米ワシントン州の本社周辺や欧州の施設前では、同社のイスラエル向け事業をめぐる抗議が相次いだと報じられてきた。社内でも契約の見直しを求める声が根強く、今回の停止はそうした圧力が経営判断に影響し得ることを示す出来事だと受け止められている。一方で、同社はイスラエルのサイバー防御や周辺国の防衛支援といった重要業務は継続する姿勢を明確にした。
停止の範囲は限定的で、イスラエル政府との商用関係の多くは残る。軍や政府機関が求める先端技術と、企業の人権責任や規約の運用のあいだに横たわる矛盾は容易には解けない。守るべきは「規約」と「原則」だけではない。市民のプライバシー、企業の説明責任、そしてテクノロジーの安全な運用に対する社会の信頼である。
クラウドとAIが国家の安全保障に深く入り込む時代、今回の判断は新たな規範づくりの試金石になる。どこまで証拠開示と第三者検証を進め、影響評価の透明性を高められるのか。企業と政府、そして市民社会の三者が、現実と原則の折り合いを探る段階に入ったと言える。
