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冷たい雨が上がった庁舎前に、ため息にも似た安堵が広がった。三重県は2025年10月14日、カスタマーハラスメントの抑止に向け、罰則を視野に入れた基本方針案を県議会の委員会に示した。繰り返しの謝罪要求などを「特定カスハラ」と定め、命令に従わなければ処分の対象にする構えだ。都道府県レベルで罰則を伴う防止条例を目指す動きは全国でも異例で、労働現場の空気を変える一歩と映る。
「特定カスハラ」をどう線引きするか
県が示した基本方針案は、従業員の離職につながるおそれがある悪質行為を「特定カスハラ」と定義する考え方を軸に据える。正当な理由のない大声、長時間や執拗な要求、謝罪や面会の強要、利益供与の迫り、著しく対応が難しい依頼などが対象になるとされる。現時点で確認されている範囲では、被害の反復性や業務への支障といった要素を重ねて、構成要件を細かく詰める方向だ。
運用は、有識者で構成する審査会が事業者らからの申告を受け、特定カスハラに該当するかを協議する流れを想定する。知事は審査会の意見を踏まえ禁止命令の要否を判断し、命令後も改善がなければ、県が条例違反の疑いで捜査機関へ告発する。被害の実態と手続の適正をどう担保するかが要であり、証拠の収集や第三者関与の仕組みが重みを増す。
罰則の水準については、一部報道によれば「50万円以下」を軸に調整が進むとされる。他方で、行政罰の過料と刑事罰の罰金はいずれも金銭的制裁でありながら性質が異なる。県は「禁止命令→不履行」という手続きを前提に、どの枠組みを採るか煮詰める段階にあるとみられる。2026年度の条例案提出を目指す方針が示され、制度設計の精度が問われている。
なぜ今、罰則を伴うのか
背景には、現場の疲弊と人材確保の危機がある。県によると、執拗な要求は従業員の心理的負担を高め、離職につながる恐れが強い。これまで各地で理念型の防止条例やガイドラインが整備されてきたが、実効性に疑問が残るという声は根強い。全国的に「注意喚起にとどまらず、抑止力を持つ仕組みを」という機運が高まっており、三重がその突破口を開こうとしている構図だ。
三重県の長は以前から、単なる理念で終わらせず過料などの制裁を含めた検討が必要だと発言してきた経緯がある。強要罪や威力業務妨害など刑法で対処できるケースもあるが、グレーゾーンの執拗な要求に行政法的な歯止めをどうかけるかが論点になってきた。今回の基本方針案は、その延長線上で具体像を伴わせた一歩といえる。
他方、北海道や群馬、東京などでは防止条例が施行済みだが、いずれも理念や事業者の努力義務を軸に据え、罰則は設けていないとされる。自治体の先行例が「啓発中心」だったのに対し、三重は「命令と制裁」を織り込む姿だ。全国初の枠組みになれば、業界団体や他の自治体の制度見直しに波及し、現場の対応マニュアルや教育も更新を迫られるとみられる。
表現の自由と現場の安心、そのはざまで
制度化が進むほど、正当な苦情との線引きは難しくなる。言い方が強いだけで処罰されるのではという懸念、逆に正当な申し出が無視されるのではという不信も生まれかねない。基本方針案は「正当な理由のない」要求を対象に据えるが、何が正当かは文脈に左右される。審査会の議論や事例集の充実、録音・録画など証拠の標準化が、萎縮と乱用を避けるカギになる。
また、個人の名誉やプライバシーに配慮した運用が欠かせない。氏名公表などの措置は抑止力として注目される一方、名誉毀損との関係や過度の制裁にならないかという論点がつきまとう。県のトップも過去の会見で、法的適合性や実効性を慎重に見極める姿勢を示してきた。禁止命令の発出基準と不服申立てのルートを明確にすることが、制度の信頼を支える。
この先は、素案の公表、パブリックコメント、議会審議を経て、文言と手続きを精緻化していく段取りになる。対象行為の例示、命令前の教示や助言、事業者の相談支援、被害者のケア、統計と検証の仕組みも併せて整える必要がある。三重発の挑戦が、声を上げる自由を確保しつつ、働く人を守る社会の「新しい当たり前」へつながるか。重い問いが突きつけられている。